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指嗾
【元彼 官能小説】

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指嗾-4

 母親は微笑みのまま頷いた。わかってますよ、といった表情だったが、もちろん母親は博識で各国の文化に理解があるわけではない。愛里菜の連れてきた恋人なら間違いないだろう、ただそれだけだった。
「……カッコいいね」
 素っ気なく言って輝子は靴を脱ぐと、二階の自分の部屋に上がっていこうとした。
「あ、輝子ちゃん」
 後ろから呼び止められる。振り返るとジョゼが紙切れを差し出していた。名刺だった。
「俺、美容師してんだ。輝子ちゃんもよかったら来てよ」
 名刺には店の名前と住所、そして『スタイリスト 田中ジョゼ』とだけ書かれていた。輝子が受け取るのを見て、
「輝子にはまだ早いよ」
 と愛里菜が言った。あんたは中学の時から六本木のヘアサロンいってたくせに、と姉を冷ややかに見返すと、反抗的な貌に愛里菜はジョゼに見えないところでまた眉を顰めた。何も言わずに階段を上って自分の部屋に入る。階下からは二人で出て行く話し声が聞こえた。
『またお姉ちゃんが男を家に連れてきた』――『ガイジン』
 メッセージを送信すると、すぐに「かっこよい?」とか「ヤブエリのカレシなら金もち?」とか次々と返ってくる。やがて「ガイジンならチンコでかくね?」と一人が発言すると、次々に「www」とフキダシが画面に踊る。バカだなこいつら、と思って輝子は制服のまま仰向けにベッドに寝転がり、顔の前に名刺を掲げた。外人っていうか、ハーフ? 日系がどうとかって言っていた。細かいことは分からないし、別に正確に把握しなくてもどうでもいい。苗字が田中って普通だな。でも確かに外人顔と日本人顔がうまく混ざってカッコいい感じだった。会ったばかりのジョゼの外見が好意的に思い出された。だがすぐに笑顔で見下ろす目の奥に何故だか妖しい光が潜んでいたのが蘇った。改めてその光に幾許の恐怖を感じた。本能的なものだ。姉が恋人に選ぶとは思えない、――騙されてるのかな。そう考えを巡らせると口元が笑みで緩んだ。
 初対面の時に直感した虐意の光は、輝子が想像した以上の鋭さで、今まさに無理矢理上げさせられた顔面に降り注いできている。涙すら止まる視線で釘付けにして、
「俺にヤラれに来たって言ってみろよ?」
 と言われると、憤りと哀しみが同時に巻き起こって胸の中を苦しめるが、同時に制服のミニスカートの中に手を入れられてヒップを掴まれた辺りに身震いが沸き起こる。
「……制服着てるのが見たいって言うから……」
 かすれた声で言った。大して勉強もせずにいたし、高校を出た先のことなんて全く考えていなかったから、同年代の女子の間で「制服がカワイイ」というだけで有名な私立高に入った。フレアスカートの丈を詰めて、ワンサイズ大きいセーターを選んだ。襟に結ぶ学校指定の大きなリボンにも、カワイク見せる結び方というものがあった。同じく学校指定の紺ハイとローファー、そして鞄。中には勉強道具なんて入っていない。入学して周囲を見渡すと、女子は皆同じような恰好をしていた。S学の子、というだけで学外の目ではギャルJK、頭の悪いユルい女の子達、などと思われることに抵抗がないわけではないが、輝子には、いや、輝子たちの世代の女の子たちには何故か「それだけ注目されている」となって、更には「洗練されている」という形容に転化されて受け入れられていた。
「俺は別に見たいなんて言ってねえし? ……S学の制服でヤリたいって言ったんだぜ?」
 捲られたスカートの中でショーツの縁に指を入れられて、まだ肌肉に硬さが残るヒップの割れ目近くをなぞられる。う、と小さな呻きを漏らして目を細めるだけで、反らすことができずにジョゼの視線に射抜かれ続けていた。
「舌出せ」
 ジョゼが目の前で長く尖った舌を延ばして蠢かせた。初対面のときにはしていなかったタンリムが唾液に光りながら輝子の目線を導く。「……早くしろよ」
「だって」
「あ? 帰るか? 叩き出すぞ?」
 そう言われると輝子は眉間を寄せて眉尻を下げると、リップを塗った唇の間から舌先を出した。
「もっとだよ」
 片眉を上げた底意地の悪い顔つきで睨まれると、輝子は震える唇を開いて、いっぱいにまで舌を伸ばした。ジョゼは嘲笑の鼻息を漏らすと尖らせた舌先で輝子の縁をなぞった。絶妙な圧でジョゼの舌先が、タンリムのツルリとした触感とともに舌だけではなく唇まで舐めつけてくる。軟体の生き物が口元を這いまわっているかのような感触だった。なのに悍ましいという理由で顔を背けることができない。暫く口を半開きにしているから、口端から唾液が漏れて顎にまで伝い、糸を引いて落ちていった。だらしがない、バカみたいな顔をしている筈なのに、ジョゼのされるがままに輝子は顔を預けていた。
「ヤリにきたんだろ?」
 囁かれる。髪をかき分けた舌が耳にまで及んで、耳穴を唾液まみれの先端が穿ってくる。至近で響くヌチュリという音が鼓膜を震わせるのではない、通り抜けて直接脳に届いてくるようだった。「『ヤッて』って言ってみろよ?」
「やだよ……、わたし、そんなんじゃないもん」
「……愛里菜は言ってたけどなぁ?」
「っ……、ウソだよ、そんなの」
「んなの、お前知らねーだろ?」


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