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指嗾
【元彼 官能小説】

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指嗾-1

 チャイムを鳴らすと、まさに今起きた姿で頭を掻きながらドアの間から顔をのぞかせたジョゼは眠そうな目を細めて、
「おお……、もうそんな時間?」
 と部屋の中を振り返った。輝子からはジョゼの体の向こうに、陽の光を浴びたカーテンに透かされてオレンジ色に包まれる中、同時に起きたのだろう女がベッドの上で背中を晒してこちらを窺っているのが見えた。
「そんな時間。あがっていい?」
 輝子はジョゼの上裸に拳を押し付けて一歩進んでローファーを脱ごうとする。三和土にはラインストーンのミュールが転がっていた。
「まぁ、待てよ」
 苦笑いしながらジョゼは輝子を制して廊下に押し戻した。
「なに? この時間に来てもいいつったじゃん」
「寝過ごした。ちょっと待っとけ」
「やだよ。何で私が待たなきゃいけないの?」
 すると部屋の奥から、
「ねぇー、ちょっとこーいうのやめてくんない? 鉢合わせとか、超面倒なんだけどさー」
 女は玄関先に目を向けず、背を見せて座ったまま下着とキャミソールを着ると、立ち上がってデニムに脚を通した。
「悪ぃ、忘れてた」
 ジョゼが部屋の中の女に向かって笑いながら手を立てて振る。女も、しょうのないヤツ、といった表情で、ジョゼの笑顔に睨んだ笑顔で応えながらボーダーのトップスを被ると頭を振って髪をバラした。自分との約束を忘れていた上に、二人して笑い合っている。なぜ事前に約束をしていて、申し合わせた通りの時間にやってきた自分の方が嗤われなければならないのか。輝子は勢い憤怒がこみ上げてきて、
「帰ってよっ、早く!」
 と、腕組みしてジョゼと自分を見ている女に噛み付いた。それを聞いても女は余裕の表情で笑っている。改めて見てみると美人だし、自分に引き比べても大人っぽく、きっとジョゼより年上だ。
「……てかさー、こんなガキにまで手出してんの?」
 呆れたようにジョゼに言った。まだ自分を嗤っている。輝子はもう一度ジョゼを押しのけて中に入って行こうとした。跳びかかって何をするつもりかは決めていなかったが、引っ叩くなり、胸ぐらをつかむなり、とにかく昨日の何時からかジョゼと過ごしていた女を叩きのめしたかった。今度はローファーを脱ごうともせず中に入ろうとした輝子の腕を掴み、
「よせって。ちょっと待ってろ」
 と反対の手で開け放たれていたドアを閉める。輝子はヒステリックに何度も腕を振るって手首を切り離そうとしたが、ジョゼの力に叶うわけはなかった。
「離せっ! ……離せよっ!!」
 ジョゼは輝子を繋いだまま玄関のドアに凭れて、大声を上げる様子を半笑いで見ていた。女は平然とバッグを手に取り化粧ポーチを取り出している。自分一人憤っている羞しさが余計に輝子を暴れさせた。
「……何なの、その子? あったまおかしいんじゃん?」
 女がコンパクトを取り出しながらジョゼに話しかける。
「こういうヤツなんだよ」
「へぇ。……あんたこういうメンドくさい子も好きなんだ」
「うるさいっ!!」
 輝子は瞼が熱く震えているのを感じた。泣いたら最悪だ。余計にバカにされる「帰れっ! 帰れよババアッ!」
 涙がこぼれてしまわないように、自分への叱咤も兼ねて罵声を吐くと、女は顔をしかめながら、
「ババァってさぁ……、そりゃアンタから見りゃそうだろうけど」
 女はメイクブラシを顔に走らせながら、ジョゼに手を引かれてそれ以上進めない輝子のギリギリまで歩み寄ると、「ガキなだけじゃん? ……そーやってジョシコーセーとかってだけで構ってもらえるのも、今だけ」
 輝子が来るまで裸でジョゼと寝ていた。寝付く前までは、ジョゼに抱かれていたのだろう。一体どれくらいの間ジョゼと過ごしていたのか。ジョゼと交わったばかりの女の余裕の表情を見ていると、輝子はジョゼの力を振りきれないと分かっていても、女の方へ飛びかかるために身を伸ばそうとせずにはいられなかった。
「でも、ま、結構カワイイ顔してんじゃん」
 暴れすぎて厚めに残していた前髪が顔に回って隠れているのを覗きこまれる。
「そりゃそうさ。何てったってコイツ……」
「言うなっ!」
 もう片方の手で持っていたスクールバッグでジョゼの体を叩いた。ほぼ何も入っていないバッグの持ち手にぶら下げていたキーホルダーがジャラジャラと鳴る。
「コノ子が、何なの?」
「……ま、歳食ってもわりとイケてるオンナになれんだろ?」
 女の問いにジョゼは曖昧な返事をしたが、輝子の目から見ても、それは輝子を気遣ったというより、それを言われたくない様子を楽しんでいるだけのように見えた。
「じゃ、今から手つけてキープしてるわけだ。こんな歳からアンタとヤッてたら、ヤリマンになっちゃうね」
 特に詮索したいわけでもなかったのだろう、答えを得ずとも女は笑った。
「なんだよっ……。何なんだよっ、お前らっ!」
 睨みつけたが瞳が悔し涙で潤んだのが女に分かったかもしれない。「帰れっ! 帰れよっ!」


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