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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵
【フェチ/マニア 官能小説】

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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵 2.-6

「そんなこと思ってない!」
 智恵が自分をそんな風に言ったので悲しくなったし、自分の辞退をそう思われてしまったという焦りが、唐突に友梨乃の声を大きくしていた。
「なんよ、もー。そんなコワい顔せんといてー」
 これまで他人にしたことがない顔をしていたのだろう、智恵は困ったように言うと、肩に置いていた手を外して脚を組んだ。「なんでユリが怒んの?」
「だって……」
 こんな金は受け取れない。そう言いたかった。しかし言ってしまうと、金を智恵から受け取りたくない理由を聞かれてしまう。友梨乃は押し黙って俯いた。
「ユリ」
 智恵は腕が接するほど近くに座り直して誠実な顔を友梨乃に向けた。「私らトモダチやろ? そやから、お金とかのことはキッチリせなあかんねん。……大阪でキャバやってたとき、金がらみでいっぱいトモダチおらんようになったから、私」
 友梨乃は顔を上げて智恵を見返したが、その瞬間智恵の顔がユラユラと歪んだ。
「何で泣くんよー」
 嬉し涙に哀しさが混ざって溢れていた。友達と言ってくれたことに対する幸福感に体を包み込まれながら、その中身の心は友達という関係を不服に思っている、そんな自分が嫌になった。初めて会った牛丼屋で身の上話をしたが、学生時代の話はしなかった。もちろん秘めている資質も。
「こら、どーした。んー? 何で泣くんよー。私、なんか悪いこと言うた?」
 智恵が肩に手を回し抱き寄せながら、頭を撫でてきた。智恵の指が触れる頭の先から溶け落ちてしまいそうだ。
「……ち、……智恵」
 嗚咽の中で名を言った。言ってはいけない、と何度も戒める言葉が聞こえてくるが、もう耐え難かった。
「はいはい? どーしたん?」
 智恵は友梨乃の額を首に擦りつけるように抱き寄せて耳元で言った。軽い応対がむしろ深刻さを逃がしていくから、友梨乃の声は止まらない。
「……私、ね」
 一口息を飲んでから、消え入りそうな声で言った。「智恵が好き……」
「私も、ユリのこと好きよ?」
 その言葉に一度鼓動が強く鳴ったが、
「ちがうの」
 そういう意味じゃない。「あ、あのね……。ごめんなさい。私……、智恵のこと、その……、れ、恋愛、の、相手として、……み、見てる。……ごめんなさい」
 智恵のお陰で住処が決まり、収入も得るようになった。せっかくの幸せを、自分がこんな素性を持っているばかりに、自分から崩壊させてしまう哀しみに体が張り裂けそうだった。しかしそれを告げても体に回されている智恵の腕の力には何ら変わりがなかった。
「……レズ?」
 直截な言葉で智恵が言ったので、ひっ、と小さな声を上げたあと、息を深く吸った。認めるしかない。
「そう……、です。ごめんなさい……」
 息を吐き出し、泣き声に震わせながら言った。
「ふーん」
 少し間があった後、智恵の軽蔑や嫌悪の言葉を身構えていた友梨乃の耳に、智恵の声が届いた。顔を上げる。そこには笑顔があった。
「……智恵?」
「オトコ苦手っぽいなー、ってのは思てたけど、そーいうことなんかー。なっとく」
「気持ち、悪くないの?」
「誰かに言われたん?」
 友梨乃は智恵に抱かれたまま頷いた。
「そんな奴シバけ。……って、オジョーのユリにはムリやな。『ほっとけ、ボケッ』って言うたったらええねん」
「……あ、……え……」
「そっかぁ」
 智恵は友梨乃を更に強く抱き寄せた。「カワイソー。オトンとオカンだけやなかったんやね。……そんなん早よ言うたらええのに、私に」
 友梨乃はもうわけがわからなくなって、智恵にしがみついた。風呂に入ったばかりの智恵の胸元の肌に顔を押し付けて大声で泣いた。いい子いい子と冗談めかしながら智恵は何度も友梨乃の頭を撫でた。
「……てか何で、『ごめん』なん?」
「だって」
「私はレズちゃうけど」ポンポンと頭を叩きながら、「嬉しいわー」
「ほんと?」
「ほんまやで」智恵は撫でていた手を止めて呼んだ。「ユリ」
 呼ばれて友梨乃は顔を上げた。確かに智恵の表情に嫌悪は一つも浮かんでおらず、穏やかな笑顔を向けている。
「……チューしてみる?」
「え……」
「興味本位でゴメンね。でもウチ、女とチューしたことないから、どんな感じかなぁ、と思って。……こんな気持ちでしたらだめ?」
 鼓動が荒くなって胸が熱くなる。友梨乃が首を横に振ると、智恵が友梨乃の後頭に手を回し、髪を指に絡めながら引き寄せてきた。友梨乃は目を閉じて初めての唇の感触に感激していた。
「柔らかくて気持ちええなぁ」
 智恵は友梨乃に触れたばかりの唇を閉めて濡らしたあと、もう一度キスをしてくる。友梨乃は微かに声を漏らしながら、ずっと智恵の方へ唇を向け続けていた。数度唇を交わしたあと、智恵が唾液に濡れた友梨乃の上下の唇を割って舌を差し込んでくると、眉間を寄せた友梨乃だったが、それは唇を襲ってきた快感があまりに鮮烈だったためで、抵抗なく前歯を開けて口内へ智恵の舌を迎え入れていた。湿音が響く度に、友梨乃の身が甘く溶け落ちていく。脚の間から普段なら自戒に目を背けたくなるような熱い綻びが渦巻いてくる。友梨乃は羞恥を紛らわせるように、自ら舌を差し出して智恵を音を立てて掬い取り続けた。


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