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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵
【フェチ/マニア 官能小説】

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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵 1.-1

1.

 茅場町の永代通り沿いにあるコーヒーショップは、周囲のビジネスマンが待ち合わせや商談によく利用する。この外資チェーンはアルバイトもランク付けされていて、上位になれば社員と同じくらいの働きが要求された。つまり頑張ってスキルを身に付けさえすれば給料が上がるんやな?、陽太郎はそう思った。
 あくまで大学での噂だったが、この手のコーヒーショップのスタッフは、人当たりの良さや立ち居振る舞いだけでなく、ルックスも重要視されると聞いた。確かに思い返してみれば、コーヒーショップのスタッフには美男美女が多い。アルバイトの面接の時に訊いてみようかとも思ったが、さすがに答えてはくれないだろうと思ってやめた。訊いていたら不興を買ったかもしれない。
 特別の何かが欲しいわけでもないし、ただ生活する分には親からの仕送りで充分だった。だが大学に入って東京暮らしを始めると、大阪も充分に都会だと思っていたが東京はやはりケタが違った。楽しそうな場所がたくさんある。
 進学校ではあったが府のトップ校というわけでもなく、中途半端に勉強ができる奴らが集まった公立ならではの比較的のんびりとした校風だったため、受験一辺倒という高校生活ではなかった。それなりに勉強をし、それなりに遊んだ。高校三年の時に後輩の女の子に告白され付き合った。正確には今でも付き合っている――、ことになっている。遠距離恋愛だ。しかしバイトを始めたのは大阪で待っている美夕のためではなかった。一応頻繁にメッセージを送っているし、毎日通話もしている。彼女はいるかと問われれば、いると答えている。だが別に毎週帰って会いたいと思えるほどでもない。美夕の方がずっと陽太郎を想ってきただけで、もともと陽太郎は仲の良い後輩の一人くらいにしか考えておらず、告白されて漸く意識し始めた程度だった。だから別にこのままずっと会えずに関係が消滅していっても思い切りヘコむという気がしなかった。高校時代は女の子にモテた方だと思う。美夕と付き合わなくても誰かとは付き合えた筈だ。
 とはいえ上京した直後は、街も人の数も大阪とは比べ物にならない、東京の規模の大きさを前に自惚れてたらイタいめに遭うだろうと、冷静な自制心を働かせて気をつけた。しかし暫く暮らしてみると、ここでも大阪時代と同じようによくモテることがわかってきた。新歓コンパではこちらから声をかけなくても知らない女が話しかけてきたし、友達のツテで別の大学の子たちと合コンをすれば、「お持ち帰り」が出来た。
(……まー、ちょうどええ感じなんやろ)
 陽太郎はそう分析していた。見た目は悪くないと思うが、ズバ抜けて輝いているというわけでもない。陽太郎の知らない美夕の友達に出くわしたとき、「カレシ結構カッコええやん」と言われる程度、絶賛されるわけでも羨望の嫉妬を買うわけでもない、コイツならいい感じだ、と思える程度の見てくれが、嫌遠も警戒もされずにいい具合にモテるのだ。
 当然モテ続けたいと思う。だから女の子と遊びに行きたいし、自分に似合う服も着たい。そしてどんな遊興にもそれなりに金が要る。それは東京も大阪も変わらない。高校時代にもバイトをしたことはあるが、ちょっとした小遣い稼ぎで、美夕と何度か遊んだらすぐに無くなった。特定の恋人ではない誰かと遊ぼうと思ったら、もっと金がいる。なおかつ高校の時とは違って、大学生は時間もあった。
 噂を聞き、だから、というわけではなかったが、コーヒーショップのバイト募集に応じて恙無く合格した。平日日中に入れるというところも買われたのかもしれない。コーヒーショップの店員の制服は、ワイシャツ、そして全て黒のネクタイにベスト、ズボン。支給された制服は細身のスタイルに作られている。
(やっぱり着る人間を選んどるな。こんなズボン、デブいヤツやムキムキの男なら体が入らへん。細くて少しナヨッとした俺みたいなタイプが、店からしたら「ええ感じ」ってことなんや。研修の時の男連中もみんなそうやったし)
 鏡の前で腰にエプロンを巻きながら、陽太郎はそう思った。
 アルバイト初日の一週間ほど前に、品川にある社屋ビルに20人ほど集められた。研修室と銘打たれたその部屋には各店舗と同規模のキッチンセットが複数あり、分厚いマニュアルが渡されて、給仕方法から接客マナーまで一日かけて研修を受けさせられた。休憩中に同年代と雑談していると、大宮あたりの店舗の採用でもここまで研修を受けにきているらしい。飲食店のスタッフなんて、実地で仕事を憶えるものだとばっかり思っていたが、開始早々チーフと名乗る社員に、真面目にやらないと採用も取り消す、とのたまわれたら真剣に取り組むしかなかった。そうでなくても、丸一日の研修なのだからサボっているほうがつまらない。
 男女半々だったが、やはりカッコイイ男、そしてカワイイ女の子が多かった。途中から五つのグループに別れて、コーヒーの煎れ方を始めとした実務の研修に移った。最初は集中していた陽太郎もだんだんとその場の雰囲気に慣れてしまって、休憩中にも何人か喋ったし、研修を機会に親密になれるような女の子もいるんじゃないか、と思ってしばし別のグループの様子を横目で見ていた。
「ちょっと」
 指導担当に声を掛けられた。振り返ると、ズボンがタイトスカートであることだけが異なる女子の制服姿、しかしブラウスの襟が青線で縁取られている女に声をかけられた。青線は社員である印だ。


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