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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵
【フェチ/マニア 官能小説】

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鎖に繋いだ錠前、それを外す鍵 1.-8

「……タクシー代、いくらぐらいになるかわかりますか?」
「は?」
 だが、陽太郎の機先を制して言った友梨乃の言葉は想定外のものだった。
「ここから、落合まで」
「い、いや……。乗ったこと無いからわかりません……」
「1万円あれば足りますか?」
「いや、さすがに……、そこまでいかんと思います。5千円でもいいくらいやと」
「そうですか……」
 友梨乃は歩みを止めて陽太郎の方を見た。「……まだ帰らなくても大丈夫ですか?」
「え……、まぁ、はい」
 何や何やこの流れ?
「今から家に来ませんか?」




 シャワーを浴びた陽太郎は腰にバスタオルを巻いてベッドに座って待っていた。友梨乃がシャワーを浴びている間は、部屋で待っていてくれ、他の部屋には入らないでほしい、と言われた。2LDKのマンションの廊下を挟んだ正面が智恵の部屋のようだった。智恵さんが帰ってきたらどないすんねん……、あ、ゴム持ってたっけな。ラグの上に無造作に畳んで置いていたジーンズから財布を取り出すと、サイドポケットからコンドームを見つけホッとした。ベッドと敷布団との間に挟み隠しておく。
 ――ユリさんのスイッチ、どこなんかまるでわからん。何やねん、これ。
 そう思ったが、友梨乃は陽太郎のタイプの芯を衝いているし、飲んでいる時の仕草に気持ちを恍として甘くさせられていたから、友梨乃を抱ける――、下品な言葉で言えば「ヤラせてもらえる」というのは単純に嬉しかった。待ち遠しい。
 再びベッドに腰掛けながら部屋を見回す。あまり可愛らしいモノは無く、悪く言えば殺風景だった。テレビ、ベッド、そしてラグ。あとはクローゼットの中に仕舞ってあるのだろう。最小限の物しか置かない主義らしい。どこにも埃は堆積しておらず清潔な部屋だった。ふと振り返ると、ベッドの傍の壁際にブックレストで数冊の薄い本が立てかけられていた。一番端の本の表紙が見えたが、全て横文字だったから何か分からず手にとってみた。
「へぇ……」
 呟きながら開いた本の中身は楽譜だった。音楽は普通に聞くが、楽譜は読めない。だが何ページかめくって行くと、楽曲タイトルの中に『Piano』と含まれるものを見つけた。廊下をパタリパタリとゆっくり進んでくるスリッパの音が聞こえて、陽太郎は慌てて楽譜をブックレストに挟んだ。ドアノブが回る。裸体にバスタオルを巻きつけた友梨乃が神妙な面持ちで入ってきた。
「電気、消します」
 陽太郎に了解は伺わず、入ってすぐのところにある壁のスイッチを押して部屋の灯りを落とした。ドアを閉めると廊下の灯りも入ってこなくなり部屋の中は闇となった。しばらく沈黙がある。やがて闇に目が慣れてくると、相変わらずドアのところに立ったままの友梨乃の体がぼうっと見えてきた。スリッパを脱いだのだろう、裸足がフローリングに擦れる小さな足音とともに、影が近づいてくる。すぐ傍らのマットレスが少し沈む感じと、かぐわしい香りが伝わってきた。陽太郎に身を寄せて預けてくるわけでもなく、何も言わずただ隣に座っている。
「あ、あの……」
「はい」
「……いいですか?」
「はい、……いいです」
 と言ったが、友梨乃の声は緊張に震えていた。「始めましょう」
 開始の合図が何だか妙な雰囲気を醸したが、陽太郎は自分の身をズラして友梨乃の腰に触れるように近くに座り直した。正面から手を巡らせてバスタオルが巻かれている腰に手を回すと、友梨乃の体が跳ねて硬くなる。その体を引き寄せ、背後から回した手で頭を撫でると、髪の間から麗しい香りが立つ。
(暗いなぁ……)
 目は闇に完全に馴染んだが、それでも友梨乃の輪郭がぼんやり見えるだけではっきりしない。文字通りの手探りで、友梨乃の体の起伏を確認しながらゆっくりと顔を寄せていった。
 陽太郎が唇を近づけていくと、触れる直前に息が顔に掛かるのを感じたのか、陽太郎の腕の中で友梨乃の体がまた小さく跳ねた。軽く唇を触れさせる。充分間を取ってもう一回。今までの要領だったら、キスをしている間に腕や体にしがみついてくるものだが、友梨乃の腕はだらりと垂れて太ももの上に置かれていた。陽太郎はキスを続けながら、腰に回していた手を上に這わせていって、その友梨乃の腕を側身に除けた。友梨乃の上躯を触るには、垂れ下がった腕がそこを隠して邪魔だったからだ。
 陽太郎はバスタオルの上から、脹みを持ち上げるように優しく触った。友梨乃の鼻息が震えながら強く漏れる。
(でかい……)
 制服のブラウスやニットから窺わせた友梨乃のバストの大きさは、陽太郎が今まで触れたことがない程のふくよかさと心地良い手触りだった。手使いに気をつけながら、大きくはあっても瑞々しさすら連想させる優婉なバストを充分慈しむと、体に巻いて脇の下に絞めているバスタオルの緒に手をかけた。
「あっ……」
 一瞬小さな声で、陽太郎にさせまいと手を抑える出方を見せたが、思い直したのか手を下ろした。陽太郎はバストを揉みほぐしながら、こめかみや頬に優しくキスをして、バスタオルを緩めて腰元に落とす。もう一度唇にキスをしてから、友梨乃の体を引き離してその姿を見ようとすると、暗みの中で俯いて両手で胸元を隠された。
(ガード固いなぁ……、大きいのコンプレックスなんか?)


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