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鍵盤に乗せたラブレター
【同性愛♂ 官能小説】

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ときめき−二人の出会い-6



 まだ強い日差しの昼下がり。『シンチョコ』の広い前庭に立つプラタナスの木立からは、けたたましい蝉時雨が降り注いでいた。
「ケニーおっちゃん! いる?」
 店の裏口から派手にドアを叩いて威勢のいい声が聞こえた。ケネスはドアを開けた。

 逞しい大胸筋を強調するような短い、ピッタリしたTシャツにジャージのショートパンツ姿の勇輔が自転車のスタンドを立てたところだった。
「おお! 勇輔やないか。届けに来てくれたんか? 早かったな」
「うん。夏休みは部活だけだからね」
 勇輔は、自転車の荷台にくくりつけられたコンテナボックスから、朝方ケネスが注文したものが入った段ボール箱を抱えて下ろした。

 その時、段ボールの角が引っかかって、勇輔のジャージのショートパンツが下がり、彼の穿いている白い下着が露わになった。

「お! 勇輔、おまえなかなかしゃれたパンツ、穿いとるやないか」
 勇輔は慌ててジャージを上げ、照れくさそうに頭を掻いた。
「ジョックストラップやな?」
「おっちゃん、詳しいじゃん」
「いやいや、わいも好きやで、そないなちっちゃなパンツ」
「おっちゃんもこんなの?」
「わいはほとんどビキニやな。昔から」
「そうなんだ」

「納品書は中か?」ケネスは置かれた箱を開けて中身を確認した。「ん?」
「何? どうかした? おっちゃん」勇輔は着ていたチビTの裾を持ち上げ、顎の汗を拭いた。

 引き締まった腹筋が露出し、ケネスはそれをちらりと見てわずかに口角を上げた。

「ワインなんぞ注文しとらんけど」
 勇輔は裾を元に戻しながら屈託なく行った。「ああ、それ親父から。いつも贔屓にしてもらってるからって」
「ほんまに? 悪いな」
 ケネスはそのボトルを取り出した。「おお! アルゼンチンのワインやないか。しかもマルベックの赤! ええなええなええな!」
 勇輔はくすっと笑った。「そんなに嬉しい? おっちゃん」
「ワインは南米の赤に限るで。それにこれ、セクシーな香り豊かでフルボディのマルベック、最高やんか」
「何だよ、セクシーな香りって……」
「男心をくすぐる香りや。おまえも好きな子の匂い嗅いだら興奮するやろ? それに近いな」
「ますますよくわかんないんだけど……」
 ケネスは笑った。

「じゃ、俺はこれで」
 自転車のハンドルに手を掛けた勇輔を、ケネスは止めた。
「お、そうや! 勇輔、そこで待っとり」
 ケネスはそう言って、店に中に駆け込んだ。そしてすぐに戻ってきた。
「おまえ、うちのハイミルク・ホワイトチョコ好物やったな」
 勇輔の顔がほころんだ。「え? いいの? おっちゃん」
「お駄賃や。持って行き」
「ありがとう!」
 勇輔は子どものように嬉しそうな顔をして、ケネスからその白い包装の小箱を受け取った。
「期待しとったんやろ?」ケネスはウィンクをした。
「へへへ……ちょっとね」

 勇輔はその場でその箱を開けて、一粒の四角くて白いチョコレートをつまんで口に放り込んだ。
 ケネスは眉を寄せて言った。「おまえ、そんな甘甘なん、よう平気で食えるな」
「って、作ってるの、おっちゃん本人じゃん」
「普通そんなん好んで買うていくんは、ほとんど女子やで?」
「いいじゃん。好きなんだから」
 勇輔はまたにっこりと笑った。

「ほな、大五郎おやじによろしゅう言うたってや」
「わかった」
 勇輔はチョコの箱を前の籠に放り込むと、自転車に跨がり、左足でスタンドを跳ね上げて、ペダルをガチャガチャ言わせながら路地を走り去っていった。


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