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鍵盤に乗せたラブレター
【同性愛♂ 官能小説】

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ときめき−二人の出会い-5



 月影春菜(19)はすずかけ工業高校デザイン科を卒業した後、インテリアコーディネーターの勉強をするために専門学校に通っていた。彼女は高三の時の同級生シンプソン健太郎(18)と交際している。
 春菜は一人暮らしをしていた。自宅からいくらも離れていないワンルームマンションに住んでいた。親元を離れた方が自立も早まるし、親にあれこれ頼るということに抵抗感があったからだった。彼女は学校が終わった後、恋人健太郎の店『シンチョコ』でアルバイトをしていた。

 その朝、ベッドで抱き合ったままの健太郎と春菜は、荒い呼吸を落ち着かせようと、肌を合わせたままじっと抱き合っていた。
「ケン」
「何だい?」
「とってもよかった。」
「そう?」健太郎は満足そうに微笑むと、春菜の眼鏡をサイドボードの上から取り上げて春菜に渡した。「俺も、すごく満ち足りた」
 健太郎は軽く春菜にキスをした。

 春菜は頬をピンク色に染めて健太郎の目を見た。
「あのね」
「うん」
「弟の冬樹ってどうもゲイ要素があるみたいなの」
「ほんとに?」
「うん。彼の机の上に水着姿の男の子の写真が裏返して置いてあったのを、こないだ発見した」
「へえ。写真」
「あれはたぶん学校通信の切り抜き。高校の水泳部の子みたいだったよ」
「へえ……水泳部員なのか……。見たことあるやつだった?」
「うーん、見たことあるようなないような……」
 健太郎は顎に手を当てた。「誰なんだろう……、ちょっと気になるな」

「紅茶飲む? ケン」
「いいね」健太郎は微笑みながら身体を起こし、下着をはき直した。
 そして彼は南に向いた窓に掛かったカーテンを開けた。眩しい光が一気にワンルームの部屋を満たした。
「今日もよく晴れてる。本格的に夏が来たって感じだね」
 健太郎は目を細めて窓から見える川沿いの町並みを眺めた。
「窓、開けてもいいよ、ケン」春菜がキッチンで紅茶を入れながら、玄関横の高窓を開けた。
「しばらく外の空気を入れようか」
 健太郎はそう言って、ベランダに続く掃き出し窓を開けた。そよそよと穏やかな風が流れ込んできた。
「意外に涼しい風が吹くんだね、この部屋」
「川に近いからね」

「そうそう、チョコレート持ってきてたんだ。忘れてた」
 彼はバッグをごそごそと漁って、中からチョコレート・アソートの箱を取り出した。
「嬉しい」春菜が白いトレイに二つのカップとティーポットを載せて運んできた。
「弟君の好きなビターチョコも持ってきた」
「ほんとに?」春菜は嬉しそうに言った。「きっと喜ぶよ、冬樹」

 健太郎はベッドの縁に腰掛け、春菜が淹れた紅茶のカップを手に、横に座った恋人に顔を向けた。
「君は抵抗ないの? 弟くんが男の人に興味があるってことに」
「私はあまりない。BLの小説とかコミックとか時々読むし」
「あれはフィクションだろ?」
「でも、そういう関係の男性カップルって、結構いそうじゃない?」
「いるね、確かに」
「でも、弟のそんな嗜好、両親が知ったらちょっと驚くかも」
「普通焦るよね、息子のそんな事実を知ったら」

「ケンはどう思う?」
「俺は全然平気だね。だって、ケニー父さんがそうだから」
「確かに」春菜は微笑んだ。「ケニーさん、ごく普通にしてるものね」
「ま、あの人の場合は『バイ』だけどね。人を好きになる条件に『性別』という要素はない、って時々言う。それから決まって『そんなん普通やんか』って言って笑ってるよ」
「素敵だよね。自然にカミングアウトしてるし、周りの人もそれが当たり前、って顔して彼とつき合ってるし」
「今は同性婚も真剣に論議される時代だしね。以前よりジェンダーフリーの考え方は浸透してきてるって思うよ」
「ケニーさんの男性パートナーって、ケンジさんだけなのかな」
「そうみたいだよ。ケンジおじとは高校の時からの親友だし、始めはケンジおじ、そんなシュミはない、って言ってたけど、父さんが目覚めさせた、って言ってた」
「何それ」春菜は笑った。
「時々気晴らしみたいに居酒屋で二人で飲んで、その後ホテルで抱き合ってるらしいよ」

 春菜は健太郎に身体を向けて目を輝かせた。
「ねえねえ、どっちがタチでどっちがウケなのかな」
 健太郎は肩をすくめた。「それはあんまり語らないな、父さん」
「そうなんだ……」
「前にケンジおじが言ってたけど、男同士のセックスって、本やビデオみたいに激しくもなければ単純でもないらしい」
「どういうこと?」
「そもそも、ウケとかタチとか言うほど役割ってはっきりしてないらしいよ。その時の気分次第でやることも違うって」
「そうかもね。考えてみれば。私たちだってそうだよね」
 春菜は恥ずかしげに頬を染めた。
 健太郎は悪戯っぽく春菜を横目で見た。「さっきはなかなか攻撃的だったね、ルナ」
「ごめんね、ケン、押さえつけられて、苦しくなかった?」
「かなり意外で新鮮だったよ。あんなのもアリかな」
 健太郎は優しく春菜の頬を両手で包み込んで柔らかくキスをした。


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