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漂泊SOUL セクサロイドの罠
【SF 官能小説】

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森山ナオト、ランカーとの遭遇-2

2 剥奪されたライセンス

森山直人がシャワーを浴びて、凌辱されたことを思い出して吐き気をもよおすほど、サキュバスへの怒りや憎悪を堪えながら体を洗い流す。
まだサキュバスの香水の匂いや汗の匂いが肌に染みついている気がした。
ナノマシンに対して外部からアクセスされたので、体を乗っ取られたような嫌な気分なのだった。
サキュバスの噂話を直人は聞いたことがあった。他の戦士が強い酒を飲みながら「そんな美人のビッチなら俺も相手してもらいたいぜ」と話していたのである。直人はもし盗賊がいても、ナノマシンのとりわけポイントに関するセキュリティシステムは簡単に破られたりしないと信じ込んでいた。
直人は苛立ちを戦いにぶつけることに決めて、ホテルを出ようとした。
部屋のドアはロックされていて開かなかった。サキュバスが侵入したことで故障したのだろうか、と考えて「くそっ、あの女!」とドアをブーツで蹴った。
それから五分後、部屋には電撃警棒と麻酔銃を装備した制服姿の警官が五人で踏み込んできた。
直人は「おい、抵抗するな!」と怒鳴りつけられた。壁に押しつけられて、背中側で手錠をかけられた。
「これはどういうことだ?」
警官でも格上らしい中年の男が直人の罪状を告げた。
昨夜、性欲処理用のアンドロイドであるセクサロイドと違法改造ナノマシンを使い性交したはずだと警官は言った。破壊されたセクサロイドに残されていた顧客情報から、ホテルの位置情報と直人のナノマシンの登録ナンバーが判明したのだとさらに続けた。
「セクサロイド?」
「そうだ、風俗店ではなくホテルに連れ込んで壊れるほどお楽しみだったんだろうが。この部屋のベットでやったのか?」
若い警官にこの部屋をきっちり鑑識して報告しろと中年警官が言ってから、直人の背中を押して歩かせた。
保護区の警察署に連行された直人は留置場に放り込まれた。
「お前、何をしたんだ?」
同じ牢部屋に入れられていた初老の男は遠慮なく直人に聞いてきた。「俺は産廃のジャンク品を集めていて捕まったけどよ」と初老の男は言った。
アンドロイドやバトルアーマーの廃棄物処理場で、注文のあった部品を調達するジャンク屋に、直人は昨夜の話をかいつまんで話した。
「ついてねぇな、サキュバスにやられたな」
ランカーのサキュバスについて、ジャンク屋が小声で看守に聞かれないように直人に教えてくれた。
直人が呼ばれて、取り調べ室に連れて行かれるのかと思っているとまともな応接室に案内された。
背の高い痩せた上等なスーツ姿の中年の男が「彼と話がしたいのだが」と言うと警官は退室した。
男は直人に自己紹介した。「私は、リガーコーポレーションの槇野といいます。アンドロイドの開発員をしております」槇野に笑顔はなかった。
リガーコーポレーションは元医療用の義手や義足を製作していたが、今ではアンドロイドやバトルスーツの開発をしている有名企業である。
「手錠はどうにもなりませんが……」
男は直人に煙草をくわえさせると火をつけた。
「もう弁護士の手配はお済みですか?」
「まだ、ぶちこまれたばかりで何もしてない」
直人が答えると槇野は弁護士の手配をしておいてくれると言い出した。
「裁判所で会いましょう。詳しい話は出てから話します。三ヶ月は留置場にいることになるでしょうが、我慢してください」
槇野と入れちがいで部屋に警官が入って来た。取り調べ室へ直人を連れて行き、調書を作った。
三日後、弁護士は差し入れを持ってきた。
「煙草は無理ですけど、読みたい本があれば持ってきます。証拠不充分で不起訴、というのは期待できません。しかし流刑地へ服役にならないように持っていきます。あとは、似たような事件もあなたが自供すれば乗せられかねないので、絶対に知らないことまでは認めないで下さい」
若い女性の弁護士だった。槇野から依頼された弁護士は取り調べで不当な行為などがあれば有利になるので毎週、話を聞きに来ると言った。
留置場では朝食後に四日に一度に入浴、十五分から二十分ほど平日は屋上で運動の時間がある。
運動といっても空が見えるところで、看守に時間を確認されながら、電動シェーバーで髭そりや爪切りで手足の爪を切ったり、喫煙ができる時間で、膝の屈伸をしている者がたまにいるだけだ。
牢部屋ごとに順番で四日おきに入浴できるようにローテーションが組まれている。
喫煙は運動の時間に一日二本のみ。土日は運動はなしで、月曜に入浴後、すぐに一服するとヤニでクラクラするが留置されている喫煙者の楽しみである。
ポイントがない者は煙草が購入できない。他の者に分けてもらうことも許されていない。
煙草は面会者が差し入れできない。煙草に違法薬物を仕込んで持ち込まれないようにするためらしい。
ポイントで煙草や菓子、本や雑誌などは購入できる。
男女で牢部屋は離れていて、女性の入浴と運動は夕方に行われていると看守が話していた。
取り調べはぶちこまれて十日間以降、起訴されてからは行われなかった。
直人には毎週、私選弁護士が面会に来る。公選弁護士は政府がポイントのない者にも裁判を行うためにつけられる弁護士である。
公選弁護士は一度だけ顔合わせしただけで、裁判まで話を聞きに来るどころか顔も見せないのも当たり前らしい。
「取り調べが行われないのは職務怠慢ですが、これ以上、罪を上乗せされる心配はありませんね」
「冤罪だと証明できないのか?」
「ハッカーによって証拠を捏造されたとしても、残念ですが起訴された以上、捜査ミスを認めさせることは不可能です」
実刑一年六ヶ月、執行猶予二年、ライセンス剥奪で裁判は終わった。傍聴席には槇野と傍聴マニアの学生らしき者が二人しかいなかった。
直人には家族はいない。
ライセンス剥奪、つまり戦士として二年間は戦場に出られないということである。


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