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桜の降る時
【初恋 恋愛小説】

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花火の咲く時-2

 「やぁだーっ!カゼなんかひいてないもんっ。大丈夫だもんー。けほけほっ。」
 「ワガママ言うんじゃありませんっ。ほら、咳してるじゃない。院長先生がみて下さるって言ってるのよ?おとなしくしなさい。」
 「ぐすっ。だ、だって。ひくっ。いんちょせんせ…、ぐすっ。おめめ、怖いんだもん…。」
 ぷっ!さすが、子供の目って違うなぁ。よくわかってる!父は子供なんて嫌いだものね。きっと、大方あの子も良家の子供なんでしょ?他の力のある家に恩を売る。そうすれば、それなりの報酬が得られると考えてるんでしょ、あの人は。だいたい、鈴本医院には小児科、ないんだから…。
 あたしはそんなことを考えながら泣いてる子供に近づいた。そして、目線を合わせるために子供の前でしゃがんだ。
 「どうしたの?お風邪ひいちゃったの?お熱もあるかな?ほっぺが真っ赤よ?」
 「カゼ…なんかじゃないもん。けほっ。お熱もないもん。」
 「どれどれ?」
 あたしはそう言いながら子供の額に手を当てる。
 「やっぱりあるよ、お熱。熱いもの。今ならお薬飲むだけで治るけど…。こじらせて肺炎になっちゃったら注射しないと治らなくなっちゃうよ?」
 子供の顔がさーっと青ざめる。
 「大丈夫。お姉ちゃんが、おめめの怖い、院長先生にあまーいお薬、出すようにお願いしてあげるから。」
 「ほんと?ほんとに?」
 「うん。約束。」
 子供の前に小指を差し出す。
 「じゃ、やくそくっ!ゆびきりげんまーん…。」
 指切りをし、子供と母親を診察室へ送り出した。ふっ、と笑う声が聞こえ、振り返ると蓮がいた。待合室の掃除をしていたようだった。
 「なによ、蓮…。いつから見てたのよ。」
 「申し訳ございません、さくら様。最初から見ていました。」
 笑いながら蓮が答える。
 「笑わないでよ。兄弟なんていないし、あたしだって子供の扱いなんてわかんないんだから。」
 「いえ、そうではございません。やはり、さくら様は優しい方だなと思っただけですよ。お医者さまにもとても向いていると思いますが…。看護婦さんにも向いているのではないですか?白衣の天使、なんてさくら様にぴったりでは?」
 白衣の天使があたしにぴったりだという蓮の言葉がとても嬉しかった。看護婦があたしに向いてる?医者よりも?…でも、きっと父はあたしが医者以外になることなんて許してくれないだろう。
 「看護婦…か…。」

 助手席では霞が静かな寝息をたてて眠っている。
 制服じゃない霞を見るのはいつも新鮮な気持ちになる。私服の霞に会うたびにいろんな霞を見れた気がして嬉しくなる。今日は浴衣…。また、違う霞に会えた。
 「んー…。」
 お、いいタイミングだ。もうすぐ花火大会の行なわれる、海の近くだ。
 車を近くの駐車場に止め、霞を起こした。
 「霞。霞。着いたよ。起きた?」
 2、3回、目をぱちぱちさせた後、霞は大きく伸びをした。
 「…ごめん。寝ちゃったね。」
 申し訳なさそうな顔をした霞と手を繋ぎながら海へと向かった。
 「あ、霞。滑りやすいから気を付けて…。」
 海岸に向かう階段は濡れていた。草履を履いているとさらに滑りやすいだろうから、と注意を促したその時だった。霞はつるっと滑り転んだ。
 「わっ!霞!大丈夫?」
 転んだ霞は階段の角に頭をぶつけてしまった。
 …起き上がらない。頭を打ったからか?目を瞑ったまま、動かない。
 「霞、霞!大丈夫か?」
 慌てて駆け寄り、霞を抱き起こす。
 「ん…。いたたたた…。頭打ってしまったわ…。」
 よかった。気が付いた。
 「だから滑りやすいっていっただろ?まったく…霞って意外とドジ?」
 立ち上がった霞はなぜか動かない。


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