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桜の降る時
【初恋 恋愛小説】

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めぐる季節のなかで-2

 ふと、いやな記憶がよみがえる。
 前世のあたし、さくらもこうやって蓮を待ってた。でも、蓮は来なかった。
さくらの父に殺されて、来ることができなかった…。まさか、まさか、また蓮に何かあったの?前世のさくらと蓮のように、悲しいすれ違いをまた繰り返してしまうの?
 ううん。蓮はきっと来る。待ち合わせに来なかったのは前世の話。もう、前世に縛られないで蓮を信じようって決めたんだから。
 蓮。来るまでいつまでも待ってるからね。

 どれくらい待っただろう?明るかった空が少しずつ暗くなっていく。もう3月とはいえ、夕方はまだ寒い。あたしは心細さも手伝って、かたかたと震えだした。
 蓮。どうしたの?お願い早く来て。
 心の中でそう祈った時、遠くで声がした。
 うつむいていた顔をあげ、声のするほうを見ると…。
 蓮っ!!蓮があたしのほうに向かって走っている。あたしも蓮に向かって走りだす。
 あたしたちは抱き合った。
 「ごめん、霞!大事な日にこんなに遅れて…。心細かっただろ?前世のように桜の下で待ち合わせて俺が来ないなんて…。」
 「いいの。信じてたから。絶対に蓮は来てくれるって。」
 「ごめん。ほんとにごめんね、霞。ところで、国家試験は…。」
 「もちろん、合格しましたっ!」
 にっこり笑って答えるあたしをもう1度、強く抱き締めた。
 「おめでとう。霞。これで4月から念願の看護師だね。」
 「うん。ありがと。」
 「あのさ…。目、閉じてくれない?」
 「なんで?ま、いっか。」
 首のあたりで蓮がなにかしてる。ちょっとくすぐったい。
 「あ、動くなよ。霞。」
 「だって、くすぐったいんだもん。」
 「もう少しだから。…よし。できた。いいよ、目開けて。」
 あたしは目を開けて、首のあたりを触ってみる。そこには今までなかったネックレスがあった。
 「蓮?これは?」
 蓮がくれたネックレスのトップはベビーリングだった。あたしの誕生石ではない、ダイヤのベビーリング。
 「看護師って仕事中、指輪できないんでしょ?だから婚約指輪のかわりに、と思って…。実は、これが届くのを待ってて遅くなっちゃったんだ。なんか手違いで遅くなっちゃったみたいで…。ごめんな、霞。」
 「婚約?」
 「そう。霞が看護師になって、その時もまだ俺を好きでいてくれたら結婚してほしいって言ってたの、覚えてない?あの時、霞はまだ高校生だったけど、4月からはもう看護師だろ?だから…。」
 「ほんとに?あたし、蓮と結婚していいの?」
 蓮を見上げるあたしを優しくみつめる蓮。
 「いろいろあったけど…。前世では悲しい別れ方をしたけど、現世の、今の俺と霞は絶対幸せになろう。絶対に霞を幸せにするから俺と結婚してほしいんだ。」
 あたしは蓮に抱きついた。嬉しい。ほんとに嬉しい。
 目を閉じると…。さくらと前世の蓮が見えた。…気がした。
 「あたしたちの分まで幸せになってね。」
 さくらの声が聞こえた気がした。
 目を開けると、まだ咲いていないはずの桜が咲いていた。桜ははらはらと優しく、あたしと蓮の上に降る。まるで雪のように。
 「蓮、桜が…。まだ咲くはずないのに…。」
 「ほんとだ。…もしかしたら前世の蓮とさくらからのプレゼントかもね。」
 長い長い季節を越えて再開したあたしと蓮。今度こそ、幸せになるんだ。
 あたしと蓮は桜の降るなかでキスをした。何度も、何度も。


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