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桜の降る時
【初恋 恋愛小説】

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花火の咲く時-1

 夏休み。学生なら誰もが待ち遠しいもの。あたしにとっては今年は特に。
 梅雨が終わったと思っていたらあっという間に夏がやってきた。気が付くともう8月。生まれて初めて、彼氏のいる夏休み。夏の輝く日差しを映す水面のように、世界中が、きらきら輝いているように感じていた。
 3年は宿題、ほとんどなくてラクだなぁ。受験勉強しろってことなんだろうけど。生まれて初めての彼氏のいる夏休み。勉強なんかしてる場合じゃないわっ!  携帯が鳴る。お気に入りの着メロが、蓮からの電話だということを知らせる。
 「はいはいっ!蓮?」
 うきうきしながら電話に出る。
 「あ、霞?あのさ、今日空いてる?ちょっと遠いんだけど、花火大会があるみたいなんだよね。行かない?」
 「行く行くっ!行きたいーっ!」
 彼氏と一緒に花火大会…。考えるだけでわくわくしてくる。
 「よかったぁ。そう言ってくれて。じゃ、いつもの駅に17時に待ち合わせね。」
 いつもの駅とは、あたしの家からも学校の最寄りの駅からも少し離れた駅。教師と生徒である蓮とあたしが一緒にいるところが誰にも見られないように、待ち合わせはいつもその駅でしていた。
 「うん。わかった。じゃ、あとでね。」
 さて…。何を着ていこう?
 電話を切った後、あたしは部屋をうろうろ歩き回っていた。
 花火大会っていったら、やっぱり浴衣?うん!浴衣、いいじゃない!浴衣にしよう!
 あたしはタンスの中から浴衣をひっぱり出した。

 「おぉっ!霞、浴衣だっ!似合うよ。いつもより少し大人っぽいね。」
 あたしの姿を見た蓮が嬉しそうに言ってくれる。
 「えへへ。花火大会っていったら浴衣かなって思って。」
 蓮は運転しながらちらちらあたしを見る。なんかいい気分っ!
 「霞は進路どうするか決まったの?」
 「せっかくのデートなのに進路の話?今は蓮は先生じゃないんだからやめてよ。」
 「教師としてじゃないよ。彼氏としても、彼女の今後が気になるわけ。」
 そういうもの?やっぱり教師として、いつまでも進路を決めないあたしを心配してるんじゃないの?と思ったけど、どっちにしても蓮に心配かけるのはよくないね。
 「いろいろ悩んだんだけど…。やっぱり看護師になろうかなって。」
 「霞、看護師になりたかったの?ま、成績はすごいよかったけど…。」
 「…忘れたの?蓮が言ったんだよ?」
 「え?俺?」
 あれ?何言ってんだろ、あたし。蓮に看護師になれ、なんて言われたことないよね?
 「ごめん。何かあたしの勘違いだと思う。前に誰かに看護師に向いてるよって言われたことあって…。」
 「そうなの?変な霞。ま、気にするなよ。…あ、やっぱ混んでるなぁ。」
 蓮の運転する車は、渋滞に巻き込まれていた。トロトロとしか走らない車に揺られているせいかあたしは眠たくなってきた。
 「あれ?霞、眠いの?」
 蓮の声が遠くに聞こえる。うん、と返事をするのが精一杯だった。
 「着いたら起こすから寝てていいよ。」
 あたしは夢に落ちていった…。

 病院の匂い、好きじゃない。早く用を済ませて部屋に帰ろう。
 あたしは父に頼まれた書類を届けに、屋敷の隣にある鈴本医院へ来ていた。
 医者になったらあたしもここで働くのよね。いやだなぁ。なんか親の作ったレールの上を走ってるだけなんだもの。
 父のいる院長室は外来の待合室の先にある。待合室の前を通ると、母親に連れられた、泣いてる子供の姿が目に入る。


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