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寝取りの騒ぎ、宵の両国
【歴史物 官能小説】

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寝取りの騒ぎ、宵の両国-4

 翌日、権造たちはおりんの芸者屋の座敷であらためて、ふぐりの化け物についての話をした。煙管をくゆらせな がら一連の騒動を聞き終えると、おりんは煙で大きな輪を作り、こう言い放った。

「簡単なことじゃないか。罠をしかけりゃいいんだよ」

「罠?」

「そうだよ。話を聞いてると、襲われたのはみんな美人と評判のおかみばかりじゃないか。そこが肝心だよ。それ に、その絵図を貸してごらん。権造、あんたが赤く印を付けた化け物の出た所、きれいにばらけているね。でもよく見てごらん、この一帯、御 材木蔵のあたりにはまだ印がないだろう? ぼちぼち、ここいらに出るんじゃないかい? ここに罠を仕掛けるんだよ」

平六が、そばでしきりに感心している。銀助も興味津々で絵図を覗き込んでいる。権造は何かしゃくにさわった が、上目遣いでおりんに訊いた。

「罠って、どんな罠なんだ?」

「御材木蔵に年増だが、とびきりいい女がいると噂を流すんだよ。適当な家におとりの女を置き、あんたたちは床 下にでも隠れ、その化け物とやらが現れたら飛び出してふんづかまえる。それで手締めシャンシャンというわけさ」

なるほどと平六と銀助は膝を打ったが、権造は(そんなことで捕まえられりゃあ世話ねえや)と心の中で毒づい た。それを読みとったかのように、おりんは横目で権造を見つつ、

「おや、権造、あんたはこの話にご不満のようだがねえ、ほかにいい知恵でもおありなのかい?」

と、わざと猫なで声で言った。

「いや……、まあ、なんだ。せっかくのおりん姉さんの入れ知恵だ、ここはひとつ、やってみるとしようか」

「入れ知恵たぁ何だい。そんなことをいうんなら降りるよ」

「降りるって……、名案を頂戴したんで、もうあとは別に……」

「肝心なことを忘れるんじゃないよ。年増のいい女の役は誰がやるんだい?」

権造はきょとんとした。

「あたし以外の誰がやれるっていうんだい。いいね、あたしがおとりをやるよ、文句はないね?」

「評判の花魁だった姉さんなら、こりゃあ、滅法界いい女だあ」

平六たちは喜色を満面に浮かべたが、権造はその場に無表情で固まった。おりんはツッと立ち上がると、

「さあ、そうと決まったらぐずぐずしちゃあいられない。権造、おどき。あたしゃ湯屋に行って女を磨いてくる よ。おまえたちは罠を仕掛ける家を捜してきな。……権造、おどきったら」

おりんは袂(たもと)でピシャリと権造の横っ面を張った。




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