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寝取りの騒ぎ、宵の両国
【歴史物 官能小説】

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寝取りの騒ぎ、宵の両国-3

「ちくしょうめ、人の家を滅茶苦茶にしやがって。野郎、ただじゃおかねえぞ」

権造は、手込めにされたよその女房たちに、ふぐりの化け物の姿かたちをあらためて訊いてみた。が、答えはどれ もぼんやりしたもので、夜目には巨大な玉袋だけが浮かんで見え、手足はおろか顔は全く分からなかったという。だが、ここで一つの証言が あった。

「顔が見えなくってあたりまえよ。だって、のしかかられる前に、目と耳を手ぬぐいみたいなものでぐるぐる巻き にされたもの」

権造は懸命にあの朝のお咲の様子を思い出してみた。そういえば目元と耳が妙に赤かった。あれは、交情の興奮の なごりだとばかり思っていたが、目隠しをされた跡でもあったのだ。

「下手人の面は誰も見てねえか……」

権造は腕組みをして唸った。

 その後、二カ所で化け物騒ぎが持ち上がった。そして、そのうちの一件が大事に発展した。こともあろうに大名 の津軽越中守の上屋敷にて、奥方が化け物に犯されてしまったのだ。当初、奥御前の醜聞が広まってはならじと津軽上屋敷では箝口令が敷かれ たが、人の口に戸は立てられぬもの。下働きの者から「奥様、ふぐりの化け物の手籠めに遭う」の話が漏れてしまったのだ。こうなっては同心 はおろか、その上役の与力までもが町中をかけずり回るはめになった。当然、岡っ引き連中も不眠不休で化け物探しに奔走した。だが、神出鬼 没の化け物は、彼等を嘲笑うかのように、さらに三件もの騒動を巻き起こしていった……。



 権造と手下の下っ引きたちは居酒屋の隅でぐったりとなっていた。平六が蚊のなくような声で言う。

「親分、もうお手上げですぜ。これだけ探しても、尻尾の先っちょさえつかめねえ」

いつもなら、そんな弱音を叱りとばす権造だったが、今夜は黙って酒を舐めるばかりだった。すると、銀助が小声 で切り出した。

「こうなったら、親分、おりん姉さんに相談してみるのも一つの手ではないですかい?」

権造は困ったように頭に手をやった。

「おりんか……。どうもあいつは苦手だなあ」

おりんは女房のお咲の姉である。長い間、吉原で男を相手にし、桜木という名で昼三(最高級の花魁)にまで登り つめたが、半年前に身請けされて遊郭とおさらばし、今は深川で芸者屋をきりもりしていた。そのおりんが先日、権造の家に乗り込んできて言 うには、

「権造、あんたが不甲斐ないからお咲が泣いてるじゃないか。なんだい、連れ合いが一度犯られたくらいでうじう じしてさあ……。寝間で、あんたもお咲を朝まで攻め抜いてやればいいんだよ。どんどん女房を可愛がってやれば、わだかまりも消えるっても のさね」

手下の下っ引きの前ではこわもての権造も、おりんを相手にしてはたじたじであった。

「そうだ、あのおりん姉さんなら、何かいい知恵を授けてくれるかもしれませんぜ。なにせ、色の道に通じたお人 だ」

平六も身を乗り出した。銀助が勢いづいて言う。

「親分、この際そうしましょうぜ」

権造は懐手で低くつぶやいた。

「あいつに捕り物のことが分かるものか」

しかし銀助は食い下がった。

「蛇(じゃ)の 道は蛇(へび)。なにしろ相手が金玉だから、おりん姉さんも詳しいでしょう。い いきっかけがつかめると思いますがね。」

「うーーん。おりんか……」




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