オアシス-5
この戸惑う仕草が可愛くて堪らない。
「だって、分かんないし……でも、大好きで食べたいのはテオだけだからねっ!」
「ん。嬉しいよ」
2人は微笑み合って唇を重ね、そのままベットに転がろうとしたのだが……。
「こぉら。起きたんならちゃんと挨拶しに行けよ馬鹿息子」
バートンの声と同時に、入り口に置いてあったクマのぬいぐるみが飛んできてテオの後頭部に当たる。
「って。ああ……そっか、忘れてた」
渋々と身体を起こしたテオは、脱ぎ散らかした服を着ながらバートンに聞いた。
「父さんら怒ってた?」
「チビは妙に納得。カリオペも怒ってんじゃなくて呆れてる感じだな」
やけに憔悴した表情のバートンに、心当たりのあるテオはニヤニヤする。
「もしかして、会った?」
「……会った」
何の事か分からずに首を傾げるパルに、テオはそっと教えてやる。
「妹。スラン親父とカリー母さんの2人目の子供」
「ええ?!」
「今考えりゃ、14年前にここ来た時仕込んだんだな。親父もやるなぁ〜父さんも居たのになぁ〜」
「いや、あれはっカリオペがっ……って、その事は良いから早く行け」
言い訳をしようとしたバートンだったが、無駄だと思ってテオを急かす。
「はいはい♪行こうぜ、パル」
「うん♪」
準備が出来たテオはパルに手を差し出し、彼女はその手を握る。
テオの手は温かくて気持ち良い。
この手と、どうしても離れたくない。
今までの失敗なんか気にならない。
テオが居てくれたら大丈夫。
パルはテオの手をきゅっと握り、再び戦場へ向かうのだった。
「よっ。久しぶり」
「なぁにが久しぶりよっ!この馬鹿息子ぉっ!」
ヒュンヒュン
「ヒッ」
問答無用で放たれたダガーはテオの頬を掠めて背後のパルに迫る。
「ほいほい♪」
パルは何でも無い様にそれを指の間に挟んで受け止めた。
「おお〜」
パチパチと拍手を送るバートンに、パルは旅先で踊り子として小銭稼ぎをしていた事を思い出し、優雅に礼をする。
テオは頬に流れる血を目の端にとらえ、ツツッと冷や汗を流した。
「アンタねぇアタシがどれだけ怒ってるか分かるぅ?」
母親の底冷えするドス声に、テオは凍りつく程の恐怖を感じる。