イタダキマス-1
「あ〜腹へったぁ〜」
植物がまばらに生えている広大な大地。
照りつける灼熱の太陽を避け、大きな岩の影で1人の少年が小さく呟いた。
短い黒髪と、非常に珍しい赤い眼をしている少年は17歳くらいだろうか。
その少年は岩に背中を預けて、だらしなく脚を放り出していた。
「……無茶……だったかなぁ……」
何故こんな事になったのか……少年は目を閉じて、その時の事を思い出す。
―――――――――――
「はあ?冒険に出たいだ?!」
小さい頃から夢みていた冒険者。
その夢を話すと父親は呆れた声を出したのだった。
「もう、17だし良いだろ?!身体もちゃんと鍛えてるし、そこらへんの獣にゃ負けねぇしさあ?」
昔っから話の分かる父だった。
悪い事は悪い、ダメなものはダメ、と躾にはうるさいが母に隠れて知らない所に連れてってくれたり、2人して悪戯したり……まるで友達のように接する父が大好きだった。
しかし、今回の『冒険者になりたい』発言には渋い顔を見せた。
「なんで?」
「理由なんてねぇよ?なんとなくかな?」
なんとなく疼くのだ……もっと知らない事が知りたい、もっと世界を見てみたい。
「それに、父さんも母さんも元冒険者だろ?」
もしかしたらそれが原因かもしれない。
いつも寝る前に話してくれていた冒険話は、下手な絵本よりも面白く、子供心に無茶苦茶憧れたものだ。
それを聞いた父はチッと舌打ちをする。
「だからこそ、反対だな……俺らが好きで冒険者やってたと思うのか?」
それしか生きる術がなかった。
やっと今、安定した収入と帰る家を築いたのに何を言うのか、と父は少年を睨みつける。
「だから、それを知りたいんだよ!!」
口では大変だ、とか死ぬかもしれない、とかヤクザな仕事だ、とか言うが実は冒険が大好きなんだと思う。
本当に冒険者が嫌ならあんなに楽しそうに冒険話をする筈がない。
「ダメなもんはダメ」
「ダメっつっても行くかんな!」
絶対に譲れない、と少年は自分より頭ひとつ分は小さい父親を睨み返す。
「……少し頭冷やせ」
父親は素早い動きで少年の首根っこを掴み、猫のようにぶら下げて歩く。
「ばっ……!離せっ!」