ソノゴ-8
リュディの薬屋は昼過ぎには閉まる。
何故なら、午後からは地下での薬草調合などの仕事があるからだ。
マンドラコラと手分けして片付けや戸締まりをしていたリュディは、ふと手を止めて深々とため息をつく。
(あれから……お会いしてない……)
一緒にファンまで旅をして、城の皆に紹介したいと言うランスを断ってまずは魔法学園に来た。
それからは慌ただしい毎日で、分離魔法を受けたり、分離したマンドラコラと意思の疎通を試したり、地下の薬草部屋を使える様に改築したり、薬屋開店の為に奔走したり……最後に会ったのは、分離魔法で入院していた時にお見舞いに来てくれた時だ。
確かにリュディも大忙しだったし、ランスだって王子としての仕事や勉強がある。
だが、少しはリュディの為に時間を割いてくれてもいいのではないだろうか?
旅の最中はあんなに熱烈に口説いてきたのに、やはりからかわれていただけなのだろうか?
リュディはモヤモヤする胸辺りをキュッと掴んで、更に大きなため息をついた。
(勉強……)
そういえば、性教育実習を避けて旅に出たと聞いた。
もしかしたら、リュディが忙しくしている間にそれが行われて、やっぱり普通の女性が良いと思ったのかもしれない。
(仕方ない……事よね……)
酷く切ないが、自分だって結婚だの妃だの言われたらそこまでの覚悟は無い。
そのくせに愛して欲しいなどと我が儘は言えない。
物凄く……本当に悲しい事だが、これが現実だ。
リュディは益々深いため息をつき、両手で握った箒にもたれる。
カランカラン
その時、ドアが開く音を耳にしてリュディは奥から顔を覗かせた。
「ご……ご機嫌……麗しゅう……?」
薄く開いたドアの隙間から、ヒラヒラと手を振るのは……。
「ランス……様」
「お久しぶりです……リュディヴィーヌ」
スルリと店内に滑り込んだランスは、背中でドアを閉めて気まずそうに挨拶をする。
箒を持ったままランスを見ていたリュディの目から、無意識にポロポロと涙が零れた。
「リュ、リュディヴィーヌ!?」
「……ぁ……すみません……」
丁度ランスの事を考えていたので、嬉しいやら驚いたやらでごちゃごちゃになり、自然と涙が零れてしまった。