ソノゴ-5
「悪い事……したかしら……?」
別に脅かすつもりも、追い出すつもりもなかった。
両性具有を隠すつもりも、恥じる気も無いのだから。
店主……リュディは行き場の無い手を頬に当てて小首を傾げた。
『しゅるる?』
その足元でマンドラコラが扇子を掲げて「コレ、どうしよう?」と身体全体を傾げる。
「……一応……お預かりしておきましょうね?」
姫はもう来ないだろうし、扇子のひとつやふたつ無くしても貴族身分は困らない。
1年位預かって、取りに来なかったらバザーにでも出そうかな、とリュディは考えた。
リュディが受け取った扇子を金庫にしまっていると、マンドラコラがトコトコと小走りで踏みつけられた紫色のクマを持って来る。
「……これは……見本にしましょう……」
クマを受け取ったリュディは哀しそうな表情で埃を払い、直ぐに微笑んだ。
「お騒がせしました……どうぞごゆっくり」
事の成り行きを唖然と見守っていた客達は、ほうっと息を吐いて何故かリュディに向かって拍手を送る。
リュディが目を瞬いていると、女の子達がきゃあきゃあとマンドラコラを囲んだ。
「あの」
その内の1人がリュディにそそそっと寄ってきて小さく囁く。
「紫色の……ホントに効きます?」
目をパチパチさせたリュディは、ふんわり微笑んで自信満々に答えた。
「我が身で……実証済みです」
リュディの答えに女の子は驚いた表情を見せた。
どうやら両性具有だという話は本当らしい。
女の子はにこぉっと微笑み返して、ぬいぐるみのコーナーを指差した。
「そっちのウサギさん下さい♪」
「はい……ありがとうございます」
リュディはウサギを手に取ると、可愛くラッピングしてあげよう、と気合いを入れるのだった。
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「そ、それで?!」
城ではランスロット王子が報告書をグシャグシャにしてノアの話を聞いていた。
「それでも何も、何事も無かったかのような日常ですよ?」
貴族相手に臆せず、堂々とした態度が好感を持ちリュディの薬屋は益々繁盛だ。
「リュディさんの体内から分離したマンドラコラも良いパートナーですし……もう護衛、というか見張りはいらないかと思いますが?」
ノアは呆れた顔でランスの手から報告書を取り、皺を丁寧に伸ばす。