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流れゆく雲は山の彼方に
【その他 官能小説】

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その(1)-2

 ある夜、目覚めると隣の部屋から低い声が闇を縫ってきた。
親父とミカネエが声を押し殺して口論していた。ミカネエの声は鼻を詰まらせて泣いていた。
「博打をするお金があったら何で家にいれてくれないの。返せないのに何で借金するの」
「いろいろそん時の塩梅があるんだ。頼む、ミカ、言う通りにしてくれ。だいぶ借りちまって」
「イサオさんとこ行って、あたしどうすんの?」
「行きゃわかる。行ってイサオの言う通りにすればいいんだ」
「家の掃除とか?」
「いいから、行けばいいんだ。夜八時だ」
 明日の夜、イサオさんの家にミカネエが行く。
(晩御飯作りに行くんだろうか……)

 親父は酒は飲まなかったが、その代わり博打がついてまわった。爺さんからの身代も、十頭いた馬もみんな博打が持っていってしまった。金にならないマルだけを残して。
「おめえの親父は博打さえしなけりゃいい人間なんだが」
シンジのオヤジが言ったことがあった。
「人がいいから仲間に誘われてカモにされてるんだ」
(ちがう……だらしがなかったんだ……クソオヤジ……)


 イサオさんの所で毎日のように牛フンにまみれて働いているのに、まだ何か仕事をさせようとしている。ミカネエは疲れている。
(クソオヤジ!) 
憤慨したものの、私はまだ事の深刻さを知らなかった。

 その夜、酒を飲む親父の姿を初めて見た。晩飯も食わず、黙って酒をあおり、顔も上げていられないほど酔った。何度も便所に行って、ゲェゲェと吐いた。何も食っていないのだから吐くものもなく、ただ苦しい声を上げていたのだろう。

「飯食ったら早く寝ろ」
親父は私に怒鳴り、アリサは脅えて私に擦り寄って、それでも腹が減っているので飯を掻き込んでいた。
 ミカネエは黙って食事を済ませると、台所で乱暴に食器を洗った。背中の感じが怒っているような、泣いているような、ともかく話しかけられる雰囲気ではなかった。
 何度目か、親父に怒鳴られ、しまいには殴られると思ってアリサを連れて子供部屋に逃げた。

 アリサはすぐ寝入った。
ミカネエが出て行く音がして、気配をうかがうと親父はすでに布団に潜り込んでいるようだった。
 窓から麓を眺めると真っ暗な闇に小さな明かりがぽつんと見える。イサオさんの家だ。ミカネエの姿は見えない。
(こんな夜遅く、仕事なんかあるのか?……)
おかしい、と思う根拠も思いつかないのに得体の知れない不安が広がった。

 家を抜けだし、アリサが起きて泣き出さないことを祈りながら明かりを目指した。自然と早足になった。

(ミカネエの声……)
それは尋常ではない、恐怖におののく叫びだった。
 おそるおそる窓から覗いた光景に私は金縛りにあったように動くことが出来なかった。それは十歳の頭の理解を超えていて、しかし本能のわずかな部分が暗闇から片目を覗かせているような奇怪で衝撃的な場面であった。

 イサオさんがミカネエの腕を掴んで力任せに持ち上げていた。ミカネエの洗いざらしのシャツははだけてオッパイが剥き出しになっている。
「親父さんとは話が出来てるんだ。ミカちゃん、静かにしててくれ」
イサオさんのズボンからはでかいチンポが突き出ていた。
「いや、やめてください」
口の端から血が出ているのはどこかにぶつけたのか、はたかれたのか。
「とても返せる金じゃないんだ。これでちゃらにしてやるんだ。親父のためなんだ」
 床に転がされたミカネエは力が抜けたみたいにだらんとなった。速い呼吸に胸だけが激しく動く。
(助けなければ……ミカネエを助けなければ……)
だが、怖くて脚が震えていた。

(ああ……ミカネエ……)
下半身を露にしたイサオさんはミカネエのズボンを脱がし、よれよれに弛んだパンツを引き下げた。
「ミカちゃん、可愛いよ。前から好きだったんだ」
イサオさんは一人者で四十を越している。ミカネエはその時まだ十四である。私には理解が出来なかった。大人のオジサンが十四歳の子供に好きだと言うことが。……

 ミカネエのアソコに少しだけ毛が生えているのを私は知っている。いつもアリサと三人で風呂にはいるのだ。ミカネエは『母ちゃん』でもあるから毛があっても不思議とは思わなかった。それでもオジサンと比べたら『子供』なんだと思い、わけがわからなかった。

 小さいオッパイが節くれだった手に掴まれ、やがてミカネエの顔が歪んで悲痛な呻きが尾を引いた。太いチンポがミカネエの体に入っていった。
「ううう!」
間もなく野太い唸りとともにイサオさんはミカネエに被さって体を震わせた。

 私は力が抜けて尻餅をついた。そして恐怖に追われるように走り出した。
 ミカネエが戻ってきたのはそれから程なくのことである。表戸に音がして部屋に来るまでずいぶん時間がかかった。
 アリサを挟んで布団に入ったミカネエは向こう向きになって洟をすすっていた。そして布団を被ると咳を堪えるような声を出し続けていた。

 
  
 
 


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