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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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懐疑-3

 どうやら「イシバシさん」という男は学生時代に奈津子に惚れていたらしい。可能な限り聞き出した風体や言動からは、あの石橋に酷似している。別人の可能性はもちろんある。しかし田倉はあの石橋だと思っている。「イシバシさん」と再会した状況を聞いているうち、奈津子が何かを言いよどんだような気がした。セックスの最中に聞いているので勘違いかもしれない。全てを話していないような気がしたが、しつこく頓着しなかった。
 田倉は早速、石橋の履歴を調べた。昨今、個人情報保護法などにより調べるには数々の手続きが必要だが、田倉のポジションであれば権限範囲で比較的容易に調べられる。しかし、万が一のことを考えパスワードを入れて調べるのはやめ、資料室に出向き「パソコンの画面を長い時間見ていると目が疲れてしまってね。どうもわたしみたいなのは紙じゃないと落ち着かないね」などと軽口をたたき、自分で探すと言ってカギを借り、凄まじい量の中から石橋が入社した頃の社員台帳を引っ張り出した。新しいものは全てパソコンで管理されているので、ここにある書類は古いものばかりだ。そのほとんども電子化されているが、とりあえず資料はこうして残しておく。
 佐伯の出身校は知っていたが、石橋も同じ大学だと分かり得体の知れない不安が込み上げた。ついでに佐伯の資料を調べたところ、石橋とは同い年であり同時期の入社であることが分かった。能力に学歴や年齢など不要であると考えていたため、頓着しなかったせいもある。部下の個人の情報を知らなすぎるのも問題かもしれない。迂闊といえば迂闊である。
 奈津子が会ったのは石橋であることは間違いない。懐かしさのあまり、偶然出会った石橋とホテルのレストランで話したという。ホテルには女性の友人と行ったらしい。ということは、友人と連れだってホテルまで行って、偶然出会った石橋とレストランに入るため、楽しいひとときを過ごすために前もって約束したその友人とは、その場で別れたということになる。整合性がない。彼女がその友人よりも偶然出会った石橋を優先するはずがない。ということは友人と一緒に行っていないことになる。なぜ奈津子と石橋はそこに行った――または出会った?――のだろうか。
 あれから奈津子にその件について聞くことなかった。ベッドの上では少々強引な田倉の要望には、全身を羞恥色に染めながらも応えてくれる。その一途な姿に愛おしさを感じ、奈津子が自分の肉体に夢中であることを再認識できる。それをしつこく詮索して亀裂が入るのが恐い。だが、胸騒ぎが収まらない。両者の間に肉体関係があるわけではないが、石橋の存在は気になる。
 田倉は石橋の動向を気にかけるようになった。改めて観察すると特に親しくしている同僚はいないようだ。ほとんど私語もない。一匹狼――その名があまりにふさわしくないことに苦笑した。上司の沼田課長とはうまくいっていない。その事は周知の事実のようだが、他の社員は気にもしていないようだ。ある程度知ってはいたが、こうまでひどいとは思わなかった。
 それとなしに佐伯に確認したところ、石橋とは仕事以外の話はほとんどしないらしい。ほかの社員と私的な会話をしている姿も見たことがないという。一度だけ飲みに行ったと言っていた。それも最近らしい。二人だけで仕事をしたあと、石橋に誘われたという。深い意味はないのかもしれない。
 何人か部下はいる。彼の指示は明確であり、仕事をきちんと処理している。トラブルは耳にしたことはない。そこそこ能力はあるようだ。仕事人間、ということもいえる。観察すればするほど不思議な男だった。


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