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鳳学院の秘密
【学園物 官能小説】

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第4章 会合-7

 「高邁な理想を掲げ、政界に赴く者は少なくありません。しかし、理想だけで政治を変えることもできません。志半ばにして、多くの理想主義者が現実に妥協し、大勢に飲み込まれていきます。まだ政治のスタート地点にすら立ってない貴方を、理想だけで支持するわけにはいきませんわ」
 実績なき者は評価に値せず、と暗に諭しているのだが、はたして彼には通じているだろうか。それにしても長子がこの様子では、九条コーポレーションへの出資も見直しが必要ね。
 「どうやら貴方は勘違いをなされているようだ、いや、私の言い方がまずかったのでしょうか」
 予想を裏切る返事を聞くのは、本日二度目である。彼の浮かべる笑顔の仮面に忌々しさを感じながらも、その野心に満ちた瞳が爛々と輝くのを見る。怯むことなく、その危険な視線を受け止めるが、彼は身を乗り出してくるや、思いも寄らぬことを口にした。
 「欲しいのは綾小路家の後ろ盾ではありません。私が欲しいのは、‥紫織さん、貴方だ」
 その言葉の意味を理解するには一時の間を要し、理解が及ぶや私は驚きと怒り、そして思いもせぬ狼狽を覚えた。
 不意にいくつもの顔が記憶の中から浮かんでくる。それは中学を過ぎた辺りから度々引きあわされた、将来の婿候補とされる殿方達の顔であった。
 いずれ劣らぬ経歴の彼等は、自分の理想と有能さを語り、美辞麗句を持って私を誉めそやしたが、一人として愛の言葉を語る者はいなかった。一度お祖父様の勘気を被れば、二度と綾小路家の門をくぐれぬことを承知していたからだ。彼等にとって気に入られる相手は、私ではなくお祖父様。私は一人の女性としてではなく、綾小路家に取り入るための道具と見做されていた。
 その私に、初めて女性として欲しいと言ったのは、皮肉にも危険な野心を秘めた無謀な青年。己が立場もわきまえず、綾小路家の一人娘を求める不遜の輩。しかし、私は心ならずも動揺していた。
 すぐにこれが、結局は綾小路家の援助が欲しいとの、婉曲的な表現だと思い当たる。しかし一度覚えた動揺は容易に消え去ることもなく、私の中で燠火の様にくすぶり続ける。心のどこかで、いつか私のもとにもロミオが訪れ、愛の言葉を囁いてくれると夢見ていたのかもしれない。そんな甘い夢想を抱いていた自分にも驚きを覚える。
 だが、彼はロミオではない。仮に私のもとにロミオが訪れるにしても、こんな男であっていいはずがない。
 「貴方が側にいてくれれば、富も権力も必要ありません。どうか私の支えとなって頂きたい」
 これは愛の告白ではない。きっぱりと拒絶をすべきだ。そうとわかっているのに、唇が戦慄くばかりで言葉にならない。それに心に隙ができてしまったことを、相手にも悟られている。彼は好機と察してか、ここぞとばかりに迫ってくる。気持ちを立て直すのに、ほんの一時でいいから間が欲しい。
 今や感情をむき出しにした瞳が私を見据え、彼の興奮が伝わってくる。身を乗り出そうとするのが分かると、いよいよ心臓の鼓動が早まるのを覚える。
 救いの手は思わぬところからやってきた。あっけらかんとした声が、場の緊張を打ち砕いた。
 「すいませ〜ん」


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