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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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再会-5

 奈津子の提案で最上階の喫茶ラウンジに向かった。石橋は涙をふきふき奈津子に従った。目の前で豊満なヒップが揺れている。小さくはない、大きい。でも、むやみに大きいわけではない。歩きながら左右の丸みがきゅっとうねる。完璧なヒップだった。ごくりとつばを飲み込んで、慌てて視線を天井に向けた。
(だめだ! 今はそんな状況ではない! 進藤さんのお尻は、見てはいけないんだ!)
 己を叱咤した。
 奈津子はそっと中を見回している。そうしなければならない状況に石橋は胸を痛めた。
(あぁ、進藤さんかわいそうに。沼田と田倉がいけないんだ! あ、俺は?)
「入りましょう」
 安全と判断したのか、ほっとしたような口調だ。石橋は「はい」と返事をして体を縮めて従った。窓ぎわの席に着くと奈津子が「わあ、綺麗」と少女のような声をあげた。奈津子の仕草一つひとつが胸をきゅんとさせる。
「はい、とても、綺麗です」
 向かい合わせの席に座り外の景色を見つめ、華やいだ声をあげる奈津子をうっとりとした表情で見つめた。憧れの奈津子と一緒にいることが信じられなかった。
「本当に懐かしいわ。石橋さん、お元気そうでよかった」
 奈津子が振り向いたので慌てて視線を落とした。
「はい、僕はずーっとすこぶる元気です。あの、進藤さんもお元気そうで、何よりです」
「ありがとうございます」
 笑みの中に少しだけ憂いが見える。
「あれからずいぶんと時間が経ちましたね」
 奈津子は目を細め頬に手を添え、窓の外に視線を送る。
「はい、十九年七月と……」真剣な表情で天井を見つめ少し考えてから「十二日と……」と答えて、敏捷な動きで腕時計を見た。奈津子にフラれた日から正確な数字をはじき出したい。
「もうそんなになるんですね。あの頃はお互い若かったですわね」
「はい、僕もすごく若かったようで」
 日時を計算するため腕時計を凝視した。真剣なまなざしを奈津子に見せたい。
「お仕事中でしょうから。すみませんお引き留めして」
 奈津子がハンドバッグをつかむのを見た。
「と、とんでもございません、あっ! 時計は全然、違います。時間はいっぱいあります。仕事なんか全然大丈夫です! こんなもの、こうして」
 あたふたしながら石橋は腕から時計をむしり取りポケットのなかに押し込んだ。
「わたしひとりではしゃいでしまって、ごめんなさい」
「いえ、そんなことないですから! 僕の方が狂って、いやいや、はしゃいでいますので、本当に」と言ってうつむいて、「せっかくお会いできたので、進藤さんさえお時間があれば」と声が小さくなる。「わたしは大丈夫です」とほほえむ奈津子にほっとした。
 石橋と奈津子はコーヒーを注文した。
「石橋さんはどんなお仕事をされているのですか?」
 どきっとした。
「僕は大学を卒業してからずっと建材会社に勤めております。たいした会社ではありません」
 変な間はなかっただろうか。
「そんなに謙遜なさらなくても、そうですか、建材会社ですか」
 奈津子は視線を落とした。
「入社してからずいぶん時間が経っていますが、まだぺーぺーのようなものです」
 話題を変えようと思ったのだが、そんなことを口走っていた。
「わたし、石橋さんが大学の頃から頭脳明晰なのは知っています。会社もきっとそれは理解しているはずです」
 奈津子は熱く語ってから「すみません、生意気いいました」と頬を赤くした。
「い、いえ、そんな、生意気だなんて。進藤さんにそういわれると力が湧いてきます」
 奈津子は佐伯の仕事のことは語らなかった。
「あれからずいぶん経ちましたね。でも今はもう、こんなおばちゃんになってしまって、なんだか恥ずかしいわ」
「とんでもないです! 進藤さんは美しいです。今の方がずっと美しいです。あ、いや、昔から全然変わらずきれいという意味です、はい」
「いやだわ石橋さん。お世辞なんか言わないでください。それと、わたしは今は佐伯と申します」
 チクリと心臓が痛んだ。
「そ、そうでしたね……あ、いやいや、そうですか、佐伯さんですか。へぇー」
 危うく墓穴を掘りそうになった石橋は動転して、コップの水をがぶりと飲み込んだ。とたんにぶへぶへと咳き込んだ。手で口を押え「すみません」と頭を下げる石橋は「うふふ、大丈夫ですか?」と艶然とほほえむ奈津子にどきりとした。
 店員がコーヒーを持ってきたので会話が途切れる。
 憧れの君と二人っきりでいることに石橋は舞い上がっていた。遠くから観察するのと違い、間近で見るともっと優雅で気品がり、迫り来る艶めかしさに気圧されていた。同時に昨夜、例のビデオを見て『進藤さん』に二度も放ったことを思い出し、良心がとがめた。その淑女が田倉のモノになっている現実を思いだし、きゅっと胃がすくんだ。


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