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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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再会-4

 太った男が出て行ったあとドアが閉まり、ぐんとエレベーターが動いた。目の前には奇妙な男が奈津子に背を向けて立っている。男の肩が小刻みに震えていた。ごんと音が聞こえたのは、男がドアに頭をぶつけたからだ。
 奈津子は両手で体を抱いて壁まで下がった。怖くてそうしたのではない。太った男が去って安堵したことが大きい。それになぜか目の前の男からは危険な雰囲気をまるで感じていなかった。男が醸し出す雰囲気から優しささえ感じていたのだ。見ず知らずの男にそんな感情を抱いていることに戸惑っていた。
 男はそのまま崩れ落ちるように座り込み、体をくるりとこちらに向け「ごめんなさい! ごめんなさい!」と叫び、ガマガエルのようにはいつくばった。ただ驚くしかない。
「ごめんなさい! すみませんでした!」
 床を頭でごんごん叩いて謝っている。意味が分らず、落ちている物を拾いながら「あの、失礼ですがどちら様でしょう?」とおずおずと聞いた。とんでもないことをしでかそうとしてたが、この男を見て逆に冷静になった。支えが外れたように男の体がくにゃくにゃと揺れた。
「こんなことになったのは、全部、僕が悪いのです」
 上げた顔が涙と鼻水まみれになっていたので喉の奥で小さな悲鳴を上げた。泣いているような声に聞こえたが、まさか本当に泣いているとは思わなかったからだ。
「あの、すみません、あなたが悪いってどういう意味か……」
 そのときドアが開いたので奈津子は口を閉ざした。スーツ姿の眼鏡をかけた小柄な中年男が乗り込もうとしてきた。足下で土下座をしている男を見て「ひえっ」と声をあげ、手に持っていたビジネスバッグを床に落とた。「し、失礼」と言って慌ててバッグをつかみ、足をもつれさせながら去っていった。再びドアが閉まり静寂が訪れる。
 胸に手を当て、土下座している男に視線を移した。男はスーツの袖で涙をふいていた。続いてポケットからハンケチを取り出した。男は顔を上げようとはしなかった。そのとき脳裏に閃光のようなものが走った。少し屈み込んで男の顔をのぞき込む。男の顔に見覚えがあった。胸に懐かしい思いが込み上げる。はるか昔の……。
「あの、間違っていらすみません……」
 男の肩がびくっとした。ハンカチが手から落ちる。
「あなたは、もしかしたら石橋さん?」
 男は「ひーっ!」と喉を鳴らし背を丸め両手で顔を覆った。手の間から涙が滴っているのが見えた。今までの男の所作を見て奈津子は確信した。
「石橋さん、ですよね」
 男は両手で顔を覆ったままかくかくと頷いた。
「やっぱり」
 あまりの懐かしさにうれしさが込み上げた。しかしすぐに口元を引きしめ、土下座している石橋を見つめて「でも、これはどういう……」と聞こうとしたが語尾が小さくなった。もちろん後ろめたいせいである。
「じぇんぶ、ボグが悪いのでず」
 顔を上げた石橋の顔に鼻ぶくちょうちんが膨らんだ。


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