クラスタ-20
「良かったらテオドアも協力してくれないかな?」
「は?」
いきなりの誘いにテオは間抜けな声で返事をする。
「君の魔物のオーラに対する耐性は他に例が無いんだ。それにバートン譲りの猛獣使いの素質もあるしね」
そう……テオの猛獣使いの才能はバートン譲り……魔物父が『スランの手技は天下一品』と呟き、母に殴られていた。
「ああ、勿論そんな急でなくて良いんだよ。良く考えて……良い返事を期待しているよ」
デレクシスはそう言うと、テオのグラスに自分のグラスをコツンと合わせて立ち去る。
テオはその背中を見送ると、パーティーを抜け出して屋上へと向かった。
パーティーの喧騒とは裏腹に、屋上は耳が痛くなる程の静けさだ。
ピンと澄んだ冷たい空気は、アルコールで火照った身体とふやけた頭を綺麗にしてくれる様な感じ。
屋上に何ヵ所か設置してある見張り台からはオレンジ色の灯りが漏れており、1度テオを照らして姿を確認した後は無視してくれた。
(……ここを手伝うかあ……)
デレクシスはテオに協力して欲しいと言った。
それはつまり、テオにしか出来ない事が有り、テオの意思でテオが進んでするべきなのだろう。
世界が見たくて家を出て、結局失敗してリュディとパルに助けられた。
父親に会ってみたくてクラスタに来たら、あっさり出逢ってしまった。
大人になったつもりで行動したが、何ひとつ自分の手で成し遂げてない。
人間、1人で生きていく事なんか出来ないのは知っているが、いくら何でもこれじゃ情けない。
(……真剣に考えねぇと……)
今度ばかりは何となくとか、成り行きで、じゃ済まされない。
デレクシスの無謀で壮大な夢を、一緒に目指す事になるのだから。
(無謀……かぁ)
テオにとってクラスタは既に理想郷だ。
魔物と人間が共存していて、お互いを理解しようとしている。
その理想郷を全世界に……。
(すっげぇ、かっけぇよな)
実は誘われた事が無茶苦茶嬉しい。
やるやる!と即答しそうになるのをグッと堪えた。
何故なら、やるべき事がまだ残っているから。