クラスタ-19
クラスタ要塞内のパーティーは、パーティーというよりお祭り……色んな種族が入り乱れるクラスタではかしこまったパーティーは必要ないのだ。
正装するのは、その方が綺麗だし楽しいから。
ダンスも上品なものではなく、エザルの街であったお祭りに近いものだった。
会場の中心では音楽隊が奏でる曲に合わせて踊る人々……その中には勿論パルも居て、巻き込まれたノアが目を白黒させている。
そんな会場を眺めながら、テオは理想郷を見ている気分になった。
自分の父が魔物で、母が暗殺者で……と、かなり特殊な家庭で育った。
でも、目の前にある光景はテオの家庭の事情など些細なもの。
人間も魔物も獣人も妖精みたいなのも……まるで世界中の種族の品評会……ピィまでもが馴染んでいるから不思議だ。
「どうだい?クラスタ要塞は?」
そこにデレクシスがやってきてテオに新しいグラスを渡した。
「正直、驚いてる。要塞っつうから、てっきり軍隊みたいに堅っ苦しいのをイメージしてた」
将軍とか大佐とかの階級があって、要塞に近づく魔物は問答無用で殲滅!……みたいな。
「ははは。南の大陸の上層部はそのつもりだっただろうけどね。私は甘ちゃんだから」
精霊人であるデレクシスは、相棒の風の精霊ザックと心を通わせる事が出来る。
精霊でそれが出来るなら、同じ祖をもつ魔物も出来るんじゃないか、と思ったらしい。
それで、近づく魔物に話かけてみた。
勿論、殆どの魔物が襲いかかって来たが中には興味深く話を聞く者も居た。
それから長い年月をかけて人間と魔物が共存できる場所を作ったのだ。
「魔物を制圧して人間様の土地に入るな〜ってしたかったんだろうが……私を責任者にした時点で失敗だし」
デレクシスは平和な国でぬくぬく育った王子様なので、基本的に争い事が嫌いなのだ。
相手が魔物だろうが何だろうが、命が関わらないかぎり殺生しない主義。
若い頃、大きな戦いを経験したからこそ命の大切さを知っている。
「一緒に過ごしてみると魔物達も人間と変わらない。とりあえず、クラスタを中心に大陸側にも共存地帯を作りたい。それから、大陸全部……いずれは全世界で異種族が理解しあえればいいかな」
簡単に言っているがデレクシスの夢は壮大で……無謀。
それでも、彼はやる気満々で……話に聞いていた『軽薄王子』と同一人物だとは思えなかった。