投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

坂を登りて
【その他 官能小説】

坂を登りての最初へ 坂を登りて 16 坂を登りて 18 坂を登りての最後へ

後編-5

 近藤は二度と迷惑をかけないようにすると約束してくれた。
禿頭で恰幅のいい近藤はそれだけで威圧感があるが、笑うととてもやさしく見えた。H市からタクシーで来たと知って、
「それは散財させてしまって……」
金を包むように男に言ったので固辞した。関わりは厭だった。その時、小夜子はつい放屁してしまった。はっきりと音がした。
 近藤と男が顔を見合わせ、失笑した。
「失礼しました……」
「娘さん、何も聞こえませんでした。なかなか肝が据わってる」
そんなんじゃない。緊張が一瞬緩んだ隙間だったのだ。
 近藤は玄関まで来て小夜子を見送った。
「お酒はごちそうになるよ。娘さん、困ったことがあったらいつでも言ってきなさい。何とかするから」
「いいえ、けっこうです。さようなら」
近藤は大笑いをして、
「いい娘だ」
その笑い声は門を出ても聴こえていた。
 店に戻って水を飲もうと調理場に向かう途中、足が縺れてへなへなと腰が砕けた。しばらく膝の震えが止まらなかった。


 店のやり繰りが何とか落ち着いてくると、ほっと息をつく時間が増えてくる。転寝をしていた体が目覚めたように疼きだしたのはそれと無関係ではない。
(激しく抱かれたい……)と思うようになった。
 中根では満たされない。それに男ではあるけれど、やはりどこかに教師だという思いが拭い切れないところがある。けっこう破廉恥な絡みをしているようでも小夜子にはそんなわだかまりがあった。
(我を忘れてのめり込みたい……そして漲った物を……)
夜、指を使って中学の頃の自慰を思い出しては体の欲求を持て余していた。

 そんなある日、自ら男に声をかけた。急に高ぶってきて制御できなくなった。飲みに来ていた竹川を誘ったのである。顔を寄せて囁いた。
「看板までいられる?」
そして彼の太ももをそっと摩った。
 竹川はすぐに察したようで、訊き返すことなく頷いた。

 彼を選んだのはその場の成り行きではない。未婚であり、仲間の話から彼女もいないと聞いていたからである。過去の経験を踏まえた彼女なりの道義的道筋であった。それと、昔『見せ合った』時の猛った青筋が脳裏に蘇っていたのだ。たまたま中根が来ていなかったことも即断につながることとなった。
 店の合間に風呂を沸かし、悪いと思いながら、長居している客の注文を、切らしたと言って断った。浮き立つような気持ちになっていた。

 心の昂揚は脳を支配する。抱き合う前にもう感じていて、肌を合わせたとたんに快感が体を貫いた。
(ああ、溢れた……)

「よっちゃん……」
「小夜ちゃん……」
「きつく抱いて」
しがみついて口を合わせ、舌を絡めた。求めているうち、無意識に脚が開き、竹川の体を挟みつけていた。
 先端が触れてきた、と思ったら、いきなりの確かな挿入に一瞬息が止まり、声が洩れた。
「いい!」
(入った……)
のけぞって締め上げると、さらに奥へ、そして一段と漲った。
(ああ!いっぱい!)
埋め込まれ、塞がれたような感覚である。

 竹川がゆっくり抽出を始めてほどなく、このまま昇っていけると思った。動きは激しくないのに内襞が削がれるように雄々しい。しかもやさしく小夜子を圧してくる。
 あまりに気持ちよくて彼の動きに対応しようとしても合わせられず、受け止めているだけで精いっぱいだった。彼と一緒に、と思ったが、制御できない状態になってされるがまま。そして、間もなく快感に耐えきれず、
「だめ!いっちゃう!」
「いいよ。小夜ちゃん」
竹川がいっそう大きく押し込んできて、さらに腰をくねらせたものだから強烈な刺激に見舞われて一気に放り上げられたように達した。

「よっちゃん!すごい!」
弾ける体をすっぽり包んで竹川は頬擦りをしてきた。
 大きなうねりがやがてゆるやかになる。だが、余韻とはならない。硬いままの彼自身が納まったままである。そしてふたたび律動が開始された。

 一度達してこなれた女体はほどなくふたたび頂を目指す感覚となり、小夜子は喘ぎ始める。彼の動きは規則的だが、一物の潜り様には深浅の変化がある。
 小夜子も余裕が生まれて動きに合わせながら滔々とした流れに乗った。唇を重ね、目を見合せて互いの息遣いを聴く。肌から伝わる感触、性器の結合、言葉はいらない。無言のうちに段階を確かめ合っていた。
「よっちゃん、あたし、どうにかなりそう……」
「小夜ちゃん、すてきだよ」
彼の言葉に快感が増幅された。

 もうそろそろ、と思った時、突然勢いよく抜き去られて小夜子は声を上げた。すかさず腰を抱えられて軽々とうつ伏せにされ、尻が引き上げられ、身構える間もなく後ろから突かれた。
「うーん……」
新たな挿入感がズンときて、唸りながら敷布を鷲掴んで踏ん張った。具合が変わって感じがよくなったのは明らかだが、彼を抱きしめられない不安定さが狂おしいほどの法悦感を呼んだのである。

「ひい!」
小夜子は悲鳴を上げながら耐えるしかなかった。心地いいのに耐える……。
「もう、もう……」
朦朧とする中で布団の縁に手を入れ、
「よっちゃん、ここ……」
コンドームがしのばせてある。
「着けて……一緒にイキタイの……」
「大丈夫。外に……」
小夜子は駄々っ子のように腰を振り、そして痙攣した。


坂を登りての最初へ 坂を登りて 16 坂を登りて 18 坂を登りての最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前