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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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なんか、ヘンですよ?-6

もちろん、すべて無下に断るわけじゃない。


足元が覚束無いお年寄りや、ケガなんかで自由のきかない人、赤ちゃんを抱っこした人……などなど、移動が難しいお客さんには手を貸す。


でも、目の前のおじさんは足が不自由でもなさそうだし、単に自分でレジに並ぶのが面倒だからあたしに頼んできたみたいだし。


だから、こんないかにも鯨飲してきたような人にそこまでしてあげる道理はないのだ。


あたしはもう一度丁寧に頭を下げて、おじさんの脇を通り過ぎようとした、その刹那、やけに湿ってベトつく手があたしの腕を掴んだ。


「おーい、こっちは客だぞ? お客様の言うことが聞けねえのか、コラ?」


さっきまでのニタニタいやらしい笑みから一転、ドスのきいた声と据わった目であたしを威嚇するおじさん。


途端に背筋がスッと寒くなり、身体が竦んだ。


かろうじて動く目線だけで、なんとか店長に助けを求めようとレジの方を見やるけど、そこにいたのは接客中の里穂ちゃんだけ。


あ、店長、レジ締めだっけ……。


満面の笑顔でお客さんに接客している里穂ちゃんが、やけに遠く感じた。


「おい、人が話してんのに余所見してんじゃねえぞ!」


またしてもおじさんがあげるがなり声に、身体がビクッと震える。


男の人の怒鳴り声って、どうしてこう威圧感があるんだろう。


周りのお客さんも、おしゃべりをやめてあたし達をチラチラ見ていた。


おじさんに怒られた恐怖とみっともなさで、あたしは黙って下唇を噛んで俯くしか出来ない。


「……ったく、こんな使えない奴働かせんなっての」


ブツブツ文句を呟くおじさんは、泣きそうになってるあたしの顔を覗き込んでいたかと思うと、突然ニヤリと黄ばんだ歯を見せ、笑った。


「まあ仕方ねえか、今日は花火大会だもんな。大方人手が足りなくて駆り出されたってとこだろ? あんた、見るからにオトコいなさそうだし、アルバイトしかすることなさそうだもんなあ」


おじさんは下品な笑みで、あたしの頭のてっぺんから爪先までを値踏みするみたいに、何度も視線を行ったり来たり。


その不躾な視線やグサッと胸を抉る言葉に、涙が溢れて今にもこぼれ落ちそうになっていた。





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