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栗花晩景
【その他 官能小説】

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雨模様(2)-3

「今年のプログラムはなかなかの出来だね」
何人かの教師にそう言われたと、西垣は文化祭前日の委員会で報告した。
「プログラムを褒められたのはたぶん初めてじゃないかな」
美紗は満面の笑顔である。レイアウトの大半は彼女の手によるものなのだ。
 確かに過去のものと比べて格段の違いを感じる。案内としてのわかりやすさだけでなく、見ていても楽しい紙面になっている。我ながらいいものになったと思う。おそらくこれまでは前年の踏襲を繰り返していたために変わり映えのしないものになっていたのだろう。
 私は発言して、すべて美紗のアイディアであり、創作であることを付け加えた。拍手が起こると美紗は真顔で立ち上がった。
「あたし一人じゃありません。磯崎さんと一緒です」
今度は爆笑となった。
 ひとしきりの笑いが治まると、西垣は二日間の健闘を一同に確認した。

 私は一度だけ、部室で美紗と一夜を過ごせないものかと考えた。細谷の時のように、やさしく彼女を抱きしめて……。
 何もしなくていい。自分の胸の中で眠ってくれればそれだけでいい。

(実は一年の時に一人で泊まったと美紗に打ち明ける。朝早いからそうしたのだと。もちろん誰も知らないし、絶対にばれない)

ーー今年も泊ろうと思っているんだ。秘密だよ。

美紗は目を輝かせて興味を示す。

ーー面白そう。あたしも泊っちゃおうかな。

ーーいいけど、家には何て言うの?学校に泊まるのは女子は禁止だよ。

ーー友達の家に泊めてもらうと言えばだいじょうぶよ。

美紗はあっけらかんと言う。

ーーだって、文化祭の前夜祭だもの。

ーーでも、お母さんが、電話したりしないかな。相手の親にお礼を言ったりして。

ーー高校の友達の電話は知らないわ。訊かれた、後で知らせるってごまかします。

迷うことなくはっきり言う。美紗は私と泊まりたくて仕方がない。

ーーじゃあ、本当に内緒だよ。

(あとはやり残したことを見つけて鍵は自分が閉めるからと言って西垣から預かる。あいつなら疑うことはない。美紗はみんなと一緒に出て、あとからそっと戻ってくればいい)

 無理なことだと思いながら、私は空想の世界で美紗と二人だけの夜を過ごしていた。

 二日間の賑わいが過ぎ去り、各部の生徒たちが時を惜しみながらキャンプファイヤーを囲んだ。
 校庭に燃える炎を見つめながら、私は言い知れぬ充実感を味わっていた。傍から見れば些細なことだが、初めて自分の責任で一つのことを成し遂げた満足感に溢れていた。フォークダンスにも参加して、見よう見まねで輪の中に入った。美紗の小さな手を握ったのは初めてである。
「大きい」と美紗が言ったのは私の手のことだ。
「小さい」
私が返すと、いたずらっぽく怒った目をして手に力をこめた。曲がすすんでパートナーが替わった。目の前の美紗がなぜか遠く感じた。


 西田が薄笑いを浮かべながら近づいてくる時は決まって新しい女の話であるが、ここ最近は美紗のことを突っ込んでくる。
「彼女、どうした?」
近くの机に腰掛け、必ず脚を組む。
 どうした、というのはセックスをしたかという意味である。
「そんなんじゃないって」
美紗と歩いている行き帰りに西田が冷やかしながら追い抜いていったことが何回かあった。
「まだかよ。どこまでいった?」
「まだ一年生だよ。無理だよ」
「ネンネだってか?十六なら十分だぜ。結婚できる齢だからな」
私が無理だと言ったのはそういうことではない。今は可憐な美紗がそばにいるだけで歓びなのだった。
「俺は十五のやつとやったことがある」
したり顔で言う。
「中学の同級生にゃ、小学生とやったのもいるぜ」
「小学生?」
「ああ。そんとき六年。今はそいつの彼女よ。中学生だけど色っぽいぜ。処女失くすと変わるのよ、女は」
 自慢する話とは思わなかったし、むしろ悲惨だと思った。しかし、心の奥底で少しずつ性のうごめきがあったのは紛れもないことであった。
(いつかは、美紗を……)
抱きたい……。その想いはあった。
 それは出会った時から芽生えていたに違いないのだが、たしかな感覚として意識し始めたのは彼女の体操着姿を見てからである。
 体形がくっきりと表れたその姿。愛らしさと体の膨らみが混然と彼女を仕立て上げて脳裏に納まっていた。その反面、欲望をひた隠すようにいつまでも大切にしたい純白の想いがあって、その葛藤で息苦しい夜もある。

「女は待ってるんだぜ」
西田の決まり文句である。
「待ってるか……」
「そうよ。向こうにその気があっても抱いてくださいなんて言ってこねえからな。一回やったらもう完全にお前の女よ」
西田はにやにやと笑いながら親指を突き出して言った。


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