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栗花晩景
【その他 官能小説】

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雨模様(2)-10

 ジーパンの入った紙袋を提げて駅に着いた。いよいよ『本番』が始まった。
「うちに来ないか?」
思惑を持っているとどんな言い方をしても自分でぎこちなさを覚える。
「どうかな。喫茶店はもう行ったし……」
「でも、恥ずかしいわ」
「誰もいないんだ、今日は」
「そうなの?」
「親戚の家へ行ってて、夜まで留守なんだ」

 この時に気づくべきだったのかもしれない。美紗の純真な少女の心を……。何の警戒心も抱かずに私の親と接する恥ずかしさが先に立つ乙女だったことを……。そしてためらいがなく無防備だということはそれだけまだ幼かったのだ。美紗は微塵も私を疑うことなく信じ切っていたのである。

 ドアを開けて玄関に入る時、美紗は留守とわかっていながらも内を窺い、
「おじゃまします」と小声で言った。
「留守だよ。誰もいないんだ」
留守であることを繰り返した。美紗に意識を持ってもらいたかったのだ。
 部屋でジュースを出すときちんと正座をしてぺこんと頭を下げた。
「男の人のお部屋、初めて見た」
「お兄さんの部屋は?」
「あれは部屋じゃない。物置」
美紗はくすっと噴き出した。
「きれいにしてるわ、このお部屋」
「汚いよ」

(自分の部屋に美紗がいる……)
二人きりだ。それを承知でついてきたのだ。ここまでくればあとはタイミングの問題だ。
 行動を駆り立てたのは話の合間に美紗がジュースを飲み始めた時である。喉の動きを見ているうちに胸元から胸のふくらみへとつながっていった。改めて二人きりでいる現実が私を煽ってくる。このチャンスを逃したら……。

「美紗ちゃん……」
「ん?」
愛くるしい瞳が向けられ、私はにじり寄って抱き寄せた。
 まったく予期しなかったからだろう。美紗は何の抗いもせず私に包まれたまま動かない。
『あそこでやめておけば……』
やさしく口づけして愛を囁いていたなら、彼女は私の胸に頬を寄せたかもしれない。
『それだけでよかったのだ……』

 うなじから立ちのぼる肌の匂いが私を酔わせた。首筋に唇を這わせたとたん、美紗が動いた。
「いや……」
見悶えはしたものの拒絶というほど強いものではない。
『言葉を挟むべきだった……』
想いを伝えれば彼女の心に届いたかもしれない。

 発火した私は倒れ込んで唇を重ねた。押しつけたと言ったほうがいい強引な口づけであった。もはや止めることは出来なかった。
 組み敷いたことで美紗は苦しそうに呻いて私を押し返し、その反発がさらに高ぶりにつながる。
 ジュースの酸味と唾液が口辺を濡らす。
「やめてください……」
口を離した時に洩れた声は震えていたようだ。

『ああ、その時でもまだ間に合った……好きなんだと心を尽して謝れば想いは通じたにちがいない……』
 美紗の体は投げ出されたようにだらんとなった。無抵抗な状態が覚悟を決めたようにも見えた。
 やさしく愛撫する余裕などなく、ただむしゃぶりつき、夢中で小さな胸を揉みしだき、彼女の匂いを吸い込んだ。美紗の嗚咽が聞こえていたにもかかわらず……。


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