投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

デネブの館
【その他 官能小説】

デネブの館の最初へ デネブの館 7 デネブの館 9 デネブの館の最後へ

デネブの館-8

「実はね、わたしも仕事のことで悩みがあって、自分で占ってみたの。そしたら――」

 なんと彼女も俺と同じカードを引いたのだが、太陽の方向が逆だと言うのだ。
 それが何を意味するのかよくわからなかったが、要するにタロットカードというのはいい意味のカードでも逆向きに出ると意味が逆になる。
 つまり、良いカードを逆に引くと悪い意味になってしまうらしい。
 それで彼女は浮かなかったのである。

「よく分かりませんけど、占いは占いでしょう? 全部鵜呑みにしなくても」
「あなた、占い師の前で占いを軽視しないでくれる? それに――本当に仕事がうまく行かなくて」
「仕事って、占い師なんですよね?」
「ええ、そうよ」
「今日はお客さんは?」
「あなたが、今週はじめてのお客さんなの」

 水曜の夜である。ということは、今週の売り上げは、千円――――。
 魔女の腹が、グーッと鳴った。なんとも切ない音に聞こえた。

「失礼ですけど、ご両親とか、ご自宅とかは?」
「両親は、いないの。自宅も無いわ。今は、あの、ネットカフェとかに泊まったりして」

 俺は急に重いものを背負い込んだような気分になった。
 占いに来たはずが、占い師の人生相談に付き合うことになるとは……。
 魔女の瞳は死んだ魚のようになってしまって、しょぼんと身じろぎ一つしない。
 重い沈黙が流れた。

「あの、良ければ、何日か部屋貸しましょうか?」

 俺は言ってしまっていた。
 その魔女の姿が捨てられた猫のように思えてしまって、いたたまれなくなったのだ。
 そう、その時はそう思っていた。

「――よろしいんですか? わたし、お返しするものがないから」

 魔女は何か藁にもすがるような顔で俺を見つめている。
 俺が構わないと言うと、魔女はようやくはじめて笑ったようだ。
 あまりにメイクが濃いので不気味な笑みだったが、俺はまだ彼女の素顔をこの時は知らなかった。


デネブの館の最初へ デネブの館 7 デネブの館 9 デネブの館の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前