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栗花晩景
【その他 官能小説】

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芽吹き編(1)-2

 待ち合わせは上野公園の西洋美術館前である。七時の約束が早く着いてしまい、まだ薄暮の明るさが残っていた。

 たくさんの人々が往き来していた。駅の改札が近いこともあり、また、文化会館で何か催しがあるらしく、その付近は特に人通りが絶えない。美術館の前にもかなりの人が佇んでいる。相手が確認できるか不安だった。

「わかるかな……」
古賀は辺りを見回して、
「みんな大人ばっかりだ。わかるよ」

 電車の道々、私たちは『今日のコト』について話し合った。どこでヤルか。……場所は行ってみないとわからない。上野は何度か行ったことがあるが、動物園や博物館へ行っただけなので隠れるに適した場所など思いつかない。
「いい場所あるかな?」
「うん。いくつか考えてるんだ」
心当たりがあるような口ぶりであった。

 私が気になったのは一時間という制限である。
「探す時間もそこに入るのかな?」
「探すって?」
「その場所をさ」
「それはないだろう」
古賀は目を剥いて、
「ぶらぶら歩いてたら終わっちゃうよ。そんなのいんちきだ。俺が最初に言う」
真剣な顔で言った。

 吊革につかまりながら足元がおぼつかない。ふと思いついて、私は古賀にある提案をした。古賀は目を輝かせて微笑んだ。三十分ずつ相手を換えないかと言ったのである。
(二人に触れる……)
古賀も考えになかったようだ。
「それ、いいな」
古賀は窓外に目を向けて独り言のように呟いた。


 女の子は七時を少し過ぎてやって来た。私たちを確認することもせず、
「待った?ごめんね」と、顔見知りみたいな気安さで話しかけてきた。中本から知らされていた通り、その子はクミと名乗り、もう一人をミチとだけ紹介した。二人ともごく普通のブラウスにスカート姿で、どちらかといえば清楚な印象であった。とても金で体を触らせる女には見えない。

 クミは目が大きくてとても可愛らしかったが、どこか気の強そうなしっかりした顔つきをしていた。『ダチのスケ』というのはクミの方なのだろう。
 ミチは小柄でやや小太りでおとなしそうだった。容姿に関してはクミのほうが数段勝っていた。

 私たちは誰からともなく木々の生い茂る公園に向かって歩き出した。
「時間のことだけどさ」
古賀がクミに向かって言いだした。
「歩いてる時間は除外だぜ」
除外、という語感に妙な違和感を感じた。クミは古賀を横目で見て、
「正味ってことね。いいわよ」
腕時計に目をやって答えた。

 いつの間にかクミと古賀が並んで、その後を私とミチが付いていた。クミの方がいいと思ったがあとで交換できるのだ。

 ミチの横顔を見ると目が合った。
「何年?」と私は訊いた。彼女が答える前にクミが振り返った。
「働いてるの。十八。あたしも」
実際のところ、それほど大人っぽくは見えなかった。

 動物園の前を左に曲がり、不忍池の方へ向って古賀は歩いていった。
池が見渡せる階段の上で、
「だめだ……」と古賀が吐き捨てた。夜店が出ていて縁日のようだ。周囲の道も提灯が飾られている。
「お祭りじゃん?」
クミが少しはしゃいだ声で言った。
「戻ろう……」
古賀は来た道を引き返し、三人は黙って従った。
 
「いい場所あるか?」
「奏楽堂の方は人がいないと思う」
ぼそぼそと答えた。
「ソウガクドウって?」
ミチがクミに訊いた。クミは「知らない」と小声で言った。私も知らなかった。

 噴水の周辺には街灯があって明るかった。何組かの男女が寄り添っている。
さらに進むと明かりの届かない闇に入った。大きな木の間に灌木があって、その先の道路からの光を遮っている。日はすでにとっぷり暮れていた。

 


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