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栗花晩景
【その他 官能小説】

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早春編(1)-2

「向こう側にいくぞ」
いま降りたばかりなのに佳代子は嫌がりもせず、むしろ嬉しそうにとび跳ねた。
 村山に向かって両手を差し出した佳代子は心持ち尻を突き出して脚を開いた。私の肩車を待ち受ける体勢である。
 股間に頭を入れてぐっと踏ん張る。
「きゃひゃひゃ」
佳代子は笑いとも叫びともつかない奇声を発して私の頭を抱えた。スカートが視界を遮り、陽光を通して花柄の模様がぼんやり見える。抱きしめた時とは異なるむせるような臭いに包まれた。

(自分の首に佳代子のお尻がある……)
はっきり意識した。そして『アソコ』も……。
 村山も同じことを思ったにちがいない。新たな昂奮に胸が騒いだ。

 立ち上がると間もなく佳代子は塀に乗り移り、『アソコ』も離れていった。
額から顎に汗が伝い、体中が熱を帯びた感じであった。素早く塀に登り、村山が飛び降りた。
 彼が抱きすくめる番だ。塀の下で、もう佳代子の脚を触っている。佳代子は先ほどとは逆に後ろ向きに降り始めた。
「ゆっくりだよ」
できるだけ長く佳代子の腕を掴む。
「降りていいよ」
村山が言い、手が離れ、待ち構えた胸で抱き止めた。がっしりと腕が絡んで佳代子が捕まったように見えた。
 キャッキャッと声を上げる佳代子。村山は密着した体を擦りつけるように動かしていた。顔は上気して真っ赤である。
(自分もやってみたい……)
「もう一回登るぞ」
私は村山の行為を遮断した。

 そうやって私たちは何度佳代子を抱きしめたことだろう。三人とも汗だくだった。
繰り返すうち、佳代子にも変化が起こったように思う。くすぐったいと笑うことがなくなり、自ら私たちに身を預けるようにして首に腕を絡めてきたりした。幼いながら仄かな快感が芽生えていたのだろうか。たまたま私がセイタカアワダチソウに引っかけて太ももに怪我をしなければもっと続けていたことと思う。

 佳代子を抱いた時の気持ちはそれまで経験のないものであった。胸が詰まるような、何かを待ち焦がれるような、それでいて温かな想いがどこからか滲むように出てくる。はっきりした快感として自覚したのではない。もどかしい感情のゆらめきであった。

 その時の私に性の知識は全くなかったといっていい。わけのわからない『快感』は、本能的な反応、いわば生物としての生理だったのだと思う。だからその意味するところは解っていなかった。佳代子を抱きしめても性器の変化もない。そもそも異性と勃起を結びつけて考えたこともなかった。朝、目覚めた時に現象は見られたものの、排尿がすむと治まるのでオシッコが溜まったしるしだと捉えていたものだ。村山はどうだったのか。私より体が大きかったから何らかの兆候はあったのかもしれない。

 傷の手当のために私はいったん家に帰ることにした。軽いかすり傷だったが半ズボンの裾に擦れて痛かった。私はまだこの愉しい『アソビ』を続けたかったので、
「すぐ戻るから」
二人に念を押すように言った。


 手当を終えて家を出ると佳代子の母親と出くわした。動揺が走って思わず足が竦んだ。いけないことをしていたという意識はあったのだ。私は傷を気にする仕草をしながら俯いた。
「うちの佳代子、見なかった?」
訊ねるというより問い詰める調子を含んでいた。アノ時は夢中で人目を気にすることもしなかったが、子供同士とはいえ、大人から見ればただならぬ行為に映ったにちがいない。女の子を代わる代わる抱きしめているのである。
 誰かが母親に知らせたのかもしれない。
『佳代子ちゃん、いたずらされてるんじゃないかしら』

 母親の表情は深刻だった。眉間に皺を寄せ、不安そうな形相はいつものオバサンではない。
「ぼくは知らない。怪我したから……」
私は意味のないことをもごもごと答えた。
「土手の方へ歩いて行ったって聞いたけど、あんた行ってないの?」
村山が佳代子を土手に誘ったのだと知った。あそこならススキや草木がたくさんあって誰からも見られない。もっとちがうことが出来る。……
 私の頭を過ったのは母親への言い訳よりもまずそのことであった。
「ぼくは怪我したから、行ってません」
本当に行ってないことにほっとしながらはっきり答えた。


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