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透明な滴の物語
【同性愛♀ 官能小説】

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個室の中の格闘-3

講師である佐和子は、ホールでのビデオ上映会を抜けて戻ってきた。
途中、誰もいないエレベーターホールからトイレの前を通過する際、女子トイレから唸るような声を聞いた気がした。
気になりもう一度トイレの前まで戻り耳を澄ますと、確かに聞こえてきた。獣のような唸り声が。
佐和子も女である。
それが便秘の苦しい唸り声であることにすぐに気が付いた。
「誰かしら…」
受講生の面倒を見るべき講師としての理由からと、新人のうち誰なのだろうという単純な好奇心の両面から、佐和子は人物を特定したくなった。
佐和子はもう一度、ビデオ上映会のホールへ向かった。
ビデオの内容は、本社がある外国での物語だった。
戦争孤児の境遇から苦労して会社を立ち上げ、一代で化粧品メーカーを大きくした亡き創業者の半生を描いたドラマだった。
主人公を演ずる俳優が上手なせいで、皆興味深げに見入っていた。
このビデオ上映会も研修のひとつだが参加は任意であった。
佐和子はここにいない研修生を探した。
外出届を出して不在の者。
別の講師に手伝いで駆り出されている者。
そして男子。
いろんな理由で不在の者を除いていくと、一人の人物が浮上した。
聡美だ。
意外に思ったが聡美しか考えられない。
彼女こそが「便秘が理由で不在の者」に違いなかった。

佐和子は、ホールを出て再び唸り声のする女子トイレに向かった。
トイレに入ると、獣の吠えはまだ続いていた。
あれから30分以上は経っているというのに。
音源の個室に近づくと荒い呼吸まで聞こえてきた。
このまま誰か別の人が入ってくれば、確実にこの声は聞かれてしまうだろう。
それほど人数の多くない狭い合宿生活である。
あっという間に変な噂になりかねない。
男子憧れのアイドルは便秘であると…。
佐和子は思案した。
聡美は新入社員の中でも才色兼備で会社としてはまさに金の卵である。
最初の段階で彼女につまらないケチをつけたくない。
意を決し個室の扉をノックした。
「大丈夫ですか?」
扉の中から息をのむような警戒感が伝わってきた。
吠え声は収まった。
個室の中の獣は息をひそめたままである。
このままやり過ごしてしまいたいと思っていることが手に取るように分かる。
佐和子はもう一度声をかけた。
「かなり大変そうだから。…大丈夫ですか?」
やはり無言のままである。
無言のまま緊迫した時間が過ぎる。
このままでは埒が明かない。
こんな状況が続けば、今に本当に誰かに見つかってしまうだろう。
講師に便秘の現場を押さえられたアイドル新入社員。
それは最悪のスキャンダルとして今夜中にセミナーハウス中に拡散してしまうはずだ。
それだけはどうしても避けなければならない。
やむを得ない。
佐和子は躊躇していた言葉を口にした。
「聡美さん。聡美さんでしょ?心配なの。心配してるのよ」
個室の中で身繕いをする音がした。
中から鍵を外す音がし、立てこもりの犯人が自首するかのように扉が開いた。
予想通り聡美だった。
その顔は青ざめ引きつっていた。



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