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『清子と、赤い糸』
【幼馴染 官能小説】

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『清子と、赤い糸』-17

(まーちゃんも、ウチの背、抜いてもうたしなぁ)
 岡崎の成長ぶりは、目覚しいものがあった。この半年で10センチ以上も身長が伸びたらしく、既に清子は追い抜かれて久しい。
 ふと、下着姿のまま、姿見に映る自分を清子は眺めてみた。“Wマドンナ”の二人のように、はっきりと出っ張ってはいないが、最近、胸のふくらみが気になり始めている。岡崎との“競争”による走り込みの成果か、下半身は締まりのある一方で、やはり、女性特有の曲線が目立つようになってきた。
(これでもやっぱ、ウチ、“オンナ”なんやな……)
 監督にちらりと言われたことがある。今は体格差が目立たないので、力押しの投球でも通用しているが、“シニア・リーグ”に進めばおそらく、現行の投球スタイルでは限界が来るだろうと。中学2年、3年にもなれば、いくら女子の中では大柄な方の清子とはいえ、体格で敵う男子はほぼいなくなることも見越した、監督の考えである。
 清子自身、それはよくわかっていた。
(けどなぁ、ウチ、変化球あんま上手く投げられんしなぁ)
 カーブやスライダーを習得しようとしたが、ほとんど曲がらないばかりか、投球フォームがはっきりそれと分かるぐらい変わってしまうので、狙い打ちされてしまう。
(やっぱ、“落ちる系”の球を憶えんと、あかんのかなぁ)
 フォーク、チェンジアップと、いずれも試してみてはいるが、実戦ではとても使えないレベルで、清子は少し、悩ましく思っていた。
 清子は手のひらが大きい分、指がかなり短い。重さのある剛速球を投げられる反面、指先を器用に扱う変化球に悪戦苦闘しているのはそういう理由もあった。
(そういや、まーちゃん、ウチに向いてる変化球があるって、いうてたな)
 いずれやってくる投球スタイルの見直しを、岡崎も意識していたのだろう。変化球に関する本を読み漁り、それを不得手としている清子でも投げられるような球を、彼は探しているのだ。
(まーちゃん、ウチのこと、いつも気にかけてくれとるな……)
 それが嬉しくて、つい、頬が緩む清子であった。中学生になっても、クラスが一緒になった友達の美依子がその顔を見たら、“生暖かい微笑み”で、にへらと笑うに違いない。

 ガラッ……

「え?」
 ふと、ロッカールームの扉が開いた。鍵を閉めていたはずだったが、どうやらそれは思い込みだったらしい。
「………」
「………」
 入口に立っていたのは、岡崎だった。居残りで素振りをしていた彼は、先に着替えを済ませて帰っていった同僚たちとは遅れて、ロッカールームにやってきたようだ。
「あ……」
「お……」
 お互いに、視線を鉢合わせしながら、動きが完全に止まっていた。
「ま、ま、ま、まーちゃん!?」
「わ、わ、わ、わるい、清子!」
 すぐに、扉は閉められた。だが、間違いなく、下着姿の全身は、彼の目に映っていただろう。岡崎の真っ赤になっていた顔を思い出せば、それは瞭然としている。
「見たやろ! ウチの、パンツ、まーちゃん、見たやろぉ!」
「見てない! 見てないぞ! “くまぱん”なんて、見てないからな!」
「しっかり、見とるやないかぁっ!」
 そういうひと騒動があってから、ようやく、セーラー服姿に着替え終わって、顔を真っ赤にしながら清子はロッカールームを開放した。
「まーちゃんの、どスケベ」
「う、す、すまん」
「……まあ、ウチも、鍵かけるの忘れとったから、あかんのやけど」
「………」
 なんともいえない、微妙な空気が二人の間に漂う。しかし、もしもそんな二人の姿を誰かが見ているのだとしたら、“お似合いのカップル”のやり取りにしか、見えないだろう。
「……まーちゃん、鼻の下」
「え」
「びろーん、て、伸びとる」
「う」
 言われて岡崎が、そんなはずもないのに、伸びた鼻の下を元に戻そうと撫で始めた。あまり目にしない、泡を食ったようなそんな仕草が可笑しくて、清子はつい、吹き出してしまった。
「ほら、まーちゃんも、はよ着替えんと。まっとったるから」
「わ、わかった」
「鍵しめんと、ウチ、お返しに覗いてまうからな」
「き、気をつけよう」
 言うなり、ロッカールームに入って言った岡崎は、清子の忠告を律儀に受け止めたように、その扉の鍵を閉めてから、着替えを始めていた。
(まーちゃんの、あんな顔、初めて見たなぁ)
 下着姿の全身を見られたことは、確かに恥ずかしかったが、見たこともない岡崎の赤面を目にして、清子は少し、嬉しく感じるところもあった。
(まーちゃん、ウチのこと、“オンナ”やって、思ってくれてるんかな)
 そうでなければ、あれほど狼狽して、顔を赤くすることもないだろう。それが、淡い想いを抱く清子としては、“脈”を感じさせるもので、やはり嬉しくなるのだった。


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