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『清子と、赤い糸』
【幼馴染 官能小説】

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『清子と、赤い糸』-11


 試合の当日、である。
「やっぱ、体つきとか全然ちゃうな」
 “一・二軍紅白戦”が行われる河川敷グラウンドでは、岡崎も含めた“一軍”の面々が、試合前の守備練習を行っていた。中学生1年生(※2年生から“シニア・リーグ”に廻る)が主力となるチームなだけに、ベンチでそれを見守っている小学5,6年生の選手たちに比べれば、体格には大きな違いが見える。また、個々の動きも、“世界大会”に出場経験があるだけに、非常に洗練されたものがあり、早くも“二軍”の面々は、呑まれている雰囲気があった。
「………」
 清子もまた、気負いを感じているものか、口数が少ない。
 この時期は、女子の方が早く成長期に入り、しかも、162センチという、一般の女子の中でも相当に背の高い方になる清子は、上背に関しては“一軍”を相手にしてもそれほど見劣りはしていない。それでも、百戦錬磨の相手に比して、試合経験の差は如何ともしがたく、感じるプレッシャーをどのように受け流せばいいか、戸惑っているところがあった。
「ほな、はじめるで」
 主審を務める“一軍”のコーチが、ふたつのチームを中央に呼び寄せる。余裕を感じさせる“一軍”チームに対して、それに呑まれている“二軍”チームの動きは、最初の一礼を見ても、固さが良く見えた。
 先攻は、“二軍”チームである。
「アウト!!! チェンジ!」
 その攻撃は、“一軍”の左腕エースに対して、三人で終了した。だが、空振りは意外に少なく、アウトの全てがゴロであった。
「……清子の球の方が、速いんと違うか?」
 バットに当てられたこともあってか、“二軍”チームの面々は、試合前の緊張感が少し解れていた。相手が左腕だったので、球筋に目が慣れず三人とも結局はゴロに倒れていたが、ボールが全く追えないということもなかったからだ。3番打者にいたっては、最終的にはサードゴロに終わったものの、フルカウントから数球ファウルで粘り、相手に十球近く投げさせていた。
「まだ本気、出しとらんのかもな」
「そうやな」
 それぐらい、清子の球にはいつも、フリー打撃でキリキリ舞いにさせられているのである。
「………」
 攻守が切り替わり、その清子が、マウンドに立っていた。足を高く挙げ、体を大きく捻るダイナミックな投球フォームから、投球練習を繰り返す。
 ある意味、清子自身にとっての“テスト”の意味合いが強い試合であるだけに、“一軍”のベンチから感じる視線が、痛いぐらいに注がれていることが彼女には分かった。
「キヨの方が、いい球投げとるから、いつもどおりの調子できたらええよ」
 “二軍”の捕手は、前の回で粘りの打席を見せた3番打者である。直に“一軍”のエースと対戦したばかりだから、その違いもよくわかっているようだ。
「いきなりまー坊とやけど、あんま力まんようにな」
 そう言って、イニングの前の打ち合わせを終えて、捕手の少年は元の位置に戻っていった。
「………」
 マウンドにひとり立つ清子は、打席に岡崎を迎えても、表情が変わらなかった。それはむしろ、彼女の緊張感が悪い方に向いている状態である。
(ウチ、どないしたんや……)
 何となく身体が浮ついた感じがして、落ち着いていないのだ。考えてみれば、試合で投げるというのも随分久しぶりなので、そんな緊張感の中で立つマウンドに、違和感がどうしても拭えなかった。
「プレイ!」
 左打席に立つ岡崎の視線を受けても、清子はそれが見えていない。試合に入り込めていない状態の、心が空白のままで投じた初球が、真ん中に入った。
「!」

 キィン!

「!?」
 鋭い腰の回転から一閃された岡崎のバットが、快音を発した。その響きに打ち抜かれた清子は、我に返ったように打球の行方を目線で追いかけた。
 高々と打ちあがったそれは、失速する気配を見せないまま、川の中ほどまで飛んで、水飛沫を上げた。測るまでもない、鮮やかな“初球・先頭打者・本塁打”である。
「おおっ!」
 “一軍”の中では、それほど身体の大きくない岡崎であるが、それを思わせないぐらいに凄まじい打球であり、ベースを一周してベンチに戻ってきた彼に対して、抜かされた度肝を表すように、“一軍”のメンバーたちは苦笑まじりに手洗い祝福を与えていた。
「まーちゃん、すごなっとるなぁ……」
 一方で、岡崎に一発を浴びた清子は、打球の方向をずっと見つめていた。真ん中に入ったとはいえ、それを容赦なく振り抜いた岡崎の鋭いスイングが、目に焼きついている。
(あかん、あかん。ウチ、なにやっとんねん)
 頭をブルブルと振り、大きく腕を振り回した。そして、振り返った時には、その顔から固さが抜けて、自身溢れるいつもの勝気な表情に戻っていた。
(まーちゃん、本気で叩いてくれたからな……)
 “初球・先頭打者・本塁打”は、岡崎から受けた“叱咤のビンタ”だと清子は思う。
(ウチ、もう、負けへんで!!)
 仕切りなおしとばかりに、強くプレートを踏み込む。そして、2番打者に対する初球を、思い切り投げ込んだ。

 スパァン!

「おぉっ!」
「ストライク!」
 コースは岡崎に対するものと同じ真ん中だったが、球威は段違いであった。2番打者の驚愕している表情を見れば、それは歴然としている。
「ストライク!!」
「ストライク!!! バッターアウト!」
 “世界大会”でも活躍した巧打者に対して、清子は三球三振を奪っていた。
「アウト!!」
 3番打者は、セカンドフライに打ち取り、
「ストライク!!! バッターアウト!!! チェンジ!」
 4番打者は、並行カウントからの内角高めのストレートで、三振に切って取った。いずれの打者も、界隈では名の通った打者であり、中学1年生ながら、強豪の高校が早くも熱視線を浴びせている“逸材”たちである。


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