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惚れ薬
【その他 官能小説】

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秘薬の真髄-2

 公園を見渡すと道行くカップルを眺めた。
みんな楽しそうに歩いている。腕を組み、指を絡め、笑顔が絶えない。途切れることなく会話が弾んでいるようだ。
 それに引きかえ、俺と女との繋がりは肉欲だけだ。それが済めば何もかもゼロになる。いや、爺さんの言うように精神面を考えればマイナスといっていい。

 「薬はまだ残っているのかい?」
腹を押さえて顔をしかめて言った。
「少しだけど…」
「まだ使うかい?」
俺は即答出来ずに間を置いてから、
「そうだな…薬が効いた時の興奮はたまらないし…でも…」
俺が苦笑いを見せると、
「狭間にいるということか」
「まあ、そうかな…」
「いまさら俺が言うのもなんだが、やっぱり自然なほうがいいんだろうな…」
「自然って?」
「薬を使わずにってことさ」
「自然の出会い、成り行きってことか?それがうまくいかないから薬を作ったんじゃないの?」
「そう言われると矛盾しているが、やってみてわかることもある。化学式のようにはいかんこともある。人間相手だからな」
「たしかに、そうだけど…」

「女を知らない俺が言う資格はないが、これは心にかかわる問題だ。肉体を弄んで、それだけで済めばいいが、女の深遠な部分に何がどういう形で残るかわからない。怖いことだぞ」
爺さんは体を前屈みにして苦しそうに息をついた。
「具合悪そうだな」
「いつものことだ。しばらくすれば治まる」
俺は背中をさすってやった。
「すまない。楽になる」
「酒を控えたほうがいいんじゃないか?」
「いまさら…。それに、酒を飲むと痛みが和らぐんだ」
爺さんは笑い、俺もつられて笑った。

 深呼吸を繰り返して、爺さんは体を起こした。
「さっきの、話に出てきた会社の娘…」
「江里…」
「気立てはどうなんだ?」
「まあ、悪くはない…」
「多少器量が悪くても気立てがいい方がいいな」
「いや、顔もけっこう美人で、スタイルもいいんだ」
「なんだ。惚れてるんじゃないか」
「それは、どうかな…」
「その娘にアタックしてみたら?薬を使わないで」
「アタックか…」
爺さんが言うと何だか可笑しくて俺は笑いをこらえていたが、心の内を見抜かれたようで気持ちが引き締まっていた。
(それが出来ないでいたんだ…)
 爺さんの言葉で気持ちが前向きに動き出した気がした。
付き合うとか、結婚だとか改まったことではなく、薬のない、それこそ自然な想いで誘ってみようか。結果はどうでもいい。ただ、そうしないと自分が駄目になってしまう気がして、それは新しい『自分』を求める区切りのような気持ちであった。

 辛そうに立ち上がった爺さんは俺に手を挙げて歩き出した。
「焚き出しの時間なんだ」
「また来るから、元気で」
振り向くことなく、ワンカップの入った袋が持ち上がった。


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