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惚れ薬
【その他 官能小説】

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法悦曼荼羅華-5

 薬との違いをまざまざと感じたのは翌朝のことだ。
目覚めると全裸のまま奈々枝と寝ていた。
(安田の家にいる…)
慌てて起き上がった。その動きで目を開けた奈々枝。
「おはよう…」
事態をわかっているはずなのに笑みさえ浮かべて俺を見上げる。
「奥さん、時間が…」
時計を見て、
「大丈夫よ。あの人、まだ寝てる」
「でも、もう七時になりますよ」
「二日酔いに決まってるわ」
落ち着きはらって言う。だがこういう時は往々にして喉が渇いたりトイレに行きたくなったりして目を覚ますことがある。

 「ゆうべはすてきだったわ」
うっとりとした目をして俺の太ももを摩ってきた。昨夜、あれからもう一度濃厚に絡んでそのまま寝入ってしまったのだった。
「おねがい、入れて…」
「無理ですよ。早く着替えないと」
「すぐイキそうなの。だから早く」
蒲団をはねのけて、素っ裸だからすぐM字に体勢をつくって、
「ねえ、ねえ」
薬ならこうはいかない。
 愛撫をしている時間はない。待ち受ける淫口はすでにべっとりである。仕方なく乞われるまま宛がい、緊張の中、それでも朝勃ちの雄々しさを差し込んだ。
「あう…ううっ…いいわ…ぐっと入ってくる…」
声を押し殺している。体を重ねると奈々枝はしがみついてぐいぐいと腰を使った。初めから全速力である。
 激しい息遣いが肩口に吹きかかる。そして捏ねまわす粘着音。
「すごい、すごい、イク、イッっちゃう…うう…」
呻いたと同時に俺の肩に口を押しあてた。そうしないと声が洩れてしまうからだろう。
「うう…」
「奥さん…イク…」
奈々枝の体が目いっぱい伸び切った。踏ん張る顔が真っ赤である。
「くう…」
 放出が終わって引き抜くと、奈々枝は肩で息をしながら起き上がり、ティッシュをまとめて引き出して股間に挟んだ。
 彼女が階下に下りて間もなく安田の声が聞こえた。
 ペニスの充血はまだおさまらない。
(こういうこともあるんだ…)
奈々枝の心に俺という『男』が存在していた。しかもセックスの対象として。……

 前世の因縁だから夢に出てくるなどと思いこんでいるほど曖昧模糊とした記憶ではあるが、紛れもなく奈々枝の意識下に俺はいる。これなら奈々枝とはこれからも関係を続けていける。ほっとする。薬にはそれがない。虚しいのはそこだ。
 自分の存在がないこと…それに尽きる。燃え方が激しいだけに事後とのギャップが大きい。有頂天になってセックスに溺れていても結局恋人でも何でもないのだ。

 ふと結婚という言葉が浮かんできた。
(結婚…)
愛し合った男女が心の赴くままに自然と一緒になる。それは単に形式、形態の問題ではなく、心身ともに幸福を得るための究極の関係であるべきではないのか。なぜなら、二人が互いの存在を認め合っているはずだからだ。それが結婚であり、セックスで結びつく関係とはまったく異なるものだ。ましてや金、学歴、地位などを結婚の決め手とするなんておかしい。少なくとも俺はいやだ。寄り添うように愛を育める相手がいたら。……

 そんな関係…きっといいもののような気がする。
脳裏に現れたのは江里であった。
(江里…)
改めて思い浮かべると、いい娘だと思う。…思えてくる。……少々ずぼらだが性格はさっぱりしている。さんざん貪った女だが、見方を変えれば飽きない女だともいえる。いくら身近にいても魅力がなければそうそう頻繁にはその気になれないものだ。
 そういえば表情も豊かで愛嬌もある。結婚相手とはそんなものなのかもしれない。それに彼女にも記憶の片鱗がみられたことがあった。もし奈々枝のように江里の心に『俺』が棲みついていたとしたら、薬に頼らず付き合えるかもしれない。そうなったらとても楽しいことのように思えた。
 江里を誘ってみるか。…薬を使わずに……。
(妙なものだな…)
江里を思い出しているのに、肉体ではなく、屈託のない笑顔ばかりが浮かんでくる。かつてないことであった。


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