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冥界の遁走曲
【ファンタジー その他小説】

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冥界の遁走曲〜第一章(後編)〜-2

「か、神無月さんこそ龍也さんと楓さんは名字呼びなのに何故私は名前呼びなんですか?」
焦ったように放たれた癒姫の問いは闘夜をも困惑させた。
「そ…それは…その…」
思考するが、良い答えが見つからない。
闘夜は仕方なくため息をついて、
「分かった、じゃあ改めよう、一神。お前は何で…」
「いいです!」
癒姫は闘夜がすべて言い切る前に言葉を中断させた。
とはいえ、闘夜には癒姫の言葉の意味が分からない。
『いい』を『良い』と変換してしまう。
だからこそ、闘夜には何が『良い』のかが分からない。
…この辺の景色の事を言ってるのか?あまりいいとは思えないが。
「一神?」
闘夜が疑問符を浮かべながら問う。
「名前で…呼んでください」
闘夜はこの時になってようやく『いい』の意味を理解した。
名前で呼んでも構わない、という意味の『いい』だ。
「ああ、そう言うことか」
はは、と闘夜は笑う。
「じゃあ俺も名前でいいぞ」
そう言って闘夜はバイクを飛ばした。



一方、龍也と楓の方は闘夜達よりも西にいた。
目的地は闘夜達と同じ、アキレスの元だ。
「ねぇ、龍也」
前で運転している龍也の後ろに乗っている楓が話しかける。
「何だ?」
「敵の勢力、予測できる?」
「おそらく三人くらいだな」
龍也は迷うことなく即答した。
早すぎる答えに楓はいささか不安を感じる。
「アンタ、少しは考えた!?
適当なんて言ったらアキレスより先にぶっ殺すからね!?」
「ったりめーだよ。
こう見えても敵の勢力判断に関してだけは頭脳派なんだよ」
楓はその言葉を即座に「それ以外では頭脳を使わない」という意味に変換した。
「いいか?アキレスは強い。俺と同じでな」
「うん」
楓は適当にあいづちをうった。
確かに、龍也は強い。
『戒』という組織の中でも『特攻隊長』という地位十の指の中に入る者にしか与えられない地位だ。
いわば龍也は冥界の中でもトップクラスの強さを持っているという事だ。
そしてアキレスも戦闘指南役という死神の中の一人で、『戒』の総督をやっている一神 玄武によってしか与えられない特別な地位を持っている。
だが、アキレスの勢力と今の龍也の話と関係があるとは思えない。
「で、それが敵の勢力とどう関係があるの?」
楓は基本的に自分の考えはまとまった瞬間にはき出すタイプ。
ズケズケした女というのが自他共に認める彼女のキャラクターだ。
「俺と同じって事は俺の思考と同じって事だ」
「ううん」
楓は(龍也には見えていないが)首を横に振る。
「俺の思考は実は普段から戦いたいでいっぱいだ。」
「うん」
実は、などわざわざ付けなくても楓は知っている。
龍也には人間の三大欲求をも超えるもう一つの欲がある。
戦闘欲。
たった今、楓が勝手に名付けた名前である。
意味は言葉通りだ。
「だから奴も戦いたいでいっぱいなはずだ。
だから奴は部下をあまりつけないはずだ。
なぜなら自分が戦いたいからだ」
「ううん」
途中で否定の言葉を入れているが、龍也はまったく気づかずにどんどん話を進めていく。
敢えて強調しておくが聞き流しているではなく、気付いていないのだ。


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