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冥界の遁走曲
【ファンタジー その他小説】

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冥界の遁走曲〜第一章(後編)〜-1

俺は何を守りたかったんだろう?
俺は何を守りたいんだろう?
自分?他人?
俺の中にその答えはなかった。
ならば見つけよう。
その答えを…

第四部 「それぞれの想い」

K-12区域に闘夜はバイクを走らせている。
後ろにはフルフェイスのヘルメットをかぶった癒姫がいる。
時速は80km。
癒姫は落ちまいと闘夜の腰に手を回してしがみついている。
二人は無言だ。
耳にはバイクのエンジン音しか入ってこない。
そんな雰囲気を、癒姫の方から壊した。
「神無月さん」
癒姫は叫ぶように呼びかける。
バイクの音がうるさいので大きめの声で話さないと聞こえないのだ。
「何だ?」
「どうしてあの時私に手を差し伸べてくれたんですか?」
闘夜は沈黙した。
聞こえなかった訳ではない。
ただ、それは自分でもあまりよく分からなかった。
気がつけばそうしていた、というのが今の答えなのだろうがそれを言って後ろの少女が納得してくれるとは思えない。
かと言ってこのまま沈黙しているわけにもいかない。
だから、闘夜は言った。
「困ってる人を助けるなんて当然の事だろ?
だから俺もそうしただけだ。」
あっさりと言ってのけたが、闘夜は困ってる人を助けるのは当然だとは思っていない。
闘夜が本当に困った時に助けてくれる人間など一人もいなかったからだ。
「そうですか…神無月さんはすごい人なんですね」
闘夜にとっては嘘の答えに癒姫は妙に納得するような口調で話した。
「困った人を助けるのが当然。
言うのは簡単ですけど神無月さんはやっちゃう人なんですね」
闘夜には癒姫の顔を見る余裕はないが、口調から察するに癒姫の機嫌が良いのは分かる。
「御剣と三神は今どうしてるんだろうな?」
不意に闘夜は二人の事が気にかかって癒姫に問う。
「龍也さんと楓さんは戒での任務成功率は100%なんですよ」
癒姫は安心しきった調子で言う。
だが、その顔にはやや曇りがあった。
闘夜からは全く見えないが。
「でも今回に関しては何とも言えません。
相手が…アキレスさんなので…」
心の曇りは顔に出て、そして口調にも出てきたとき初めて闘夜にも伝わった。
が、闘夜はそれを無視して今疑問に思った事を問う。
「なぁ、癒姫」
「何ですか?」
「お前、俺を呼ぶときは名字なのに御剣や三神は名前呼びなんだな。
何でだ?」
闘夜は気づいている。
癒姫は決して龍也と楓とは親しい関係にあるわけではない、と。
商店街にいたときの龍也と楓の反応を見ればそれは明らかだった。
龍也の方は初めて見たといったような発言をしていた事も覚えている。
それなのに癒姫は名前呼びだ。
まさか、それが『戒』のルールなどという事はないはずだ。
「え…それは…その…」
癒姫は戸惑いを声にまで表している。
先ほどの自分と同じで答えが分からないのだろう。
だが、癒姫は思いもよらない形で闘夜に言葉を返してきた。


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