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冥界の遁走曲
【ファンタジー その他小説】

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冥界の遁走曲〜第一章(後編)〜-12



闘夜は癒姫の体をゆっくりと地面に置いた。
癒姫の体は消えなかった。
…生きているんだな、よかった。
闘夜は癒姫の顔を見ながらそう思った。
癒姫を守りたい。
自分を守りたい。
闘夜は目の前の敵を見た。
それは一度癒姫が守った者。
自分も守らなければならない。
そうしなければ、癒姫が報われない。
それでも目の前の敵は自分達を攻撃してくるだろう。
ならば、
「倒す!」
闘夜は地面を静かに蹴った。
今度は上ではない。
敵に向かって超スピードで向かっていく。
木剣と小太刀が各々音を奏で合う。
「アキレス!」
相手の小太刀をはじき返して懐に潜り込む。
「俺はお前も…」
木剣を鳩尾にたたき込む。
「守る!」
エメラルドグリーン色の輝きが放たれてアキレスは後ろに吹っ飛ぶ。
うめき声をあげて吹っ飛んだものの、着地だけは綺麗であった。
「俺を…守るだと!?
よくもぬけぬけと!」
今度はアキレスから闘夜に飛びかかる。
小太刀を別の生き物のように振り回して闘夜に連続攻撃を仕掛ける。
闘夜はそれをバックステップしながらさばいていく。
だが、一本の木剣で二本の小太刀をさばくのはさすがに無理がある。
闘夜の体はアキレスの攻撃時間に比例して刻まれていく。
「くそっ!」
木剣を一薙ぎ。
アキレスはそれを小太刀を交差刺せてガードした。
が、闘夜の押しが強く、体勢を崩しながら飛ばされた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
戦闘経験のない闘夜は早くも息切れしていた。
…体育のムチャクチャな見本よりもきついモノがあったんだな…。
くだらない事を一瞬考え、すぐに消去した。
今は目の前の敵にひたすら集中だ。
一方のアキレスも少し焦っていた。
戦闘において一番怖いのは相手の力量をはかり間違えることだと思っている。
だが、それでも相手の力量を読めないときがある。
…奴の力があがってきている!?
信じられないことだが、さっき衝撃刃を出したときの闘夜と今の闘夜では何かが違う。
それが直接彼の強さを変えているのだ。
「それでも…俺に負けは許されない…!」
アキレスは低くつぶやいた。
「アキレス」
闘夜が不意に話しかけた。
「一応聞くが何でお前、死神を殺そうなんて考えてるんだ?」
「…いいだろう、教えてやる。
これを聞けばお前も納得するかもしれんからな」
アキレスは構えを解いた。
「俺は物心のついたときからずっと独りだった。
それでも俺は生きる為ならどんなことでもした。
盗みや殺人など日常茶飯事だった。
そんなある日、俺は四神に出逢った」
アキレスが殺した人物。
闘夜は面識すらない。
「四神は俺に言った。
『君の強さは君を変えてくれる。
ついてきなさい、君が君を得るために』と。
俺がついていった先はガヴァメントだった。
そこで俺は戒に所属してのしあがり、戒の戦闘指南役という職を手に入れた。
俺の中の強さが戒に認められて俺は変わることができた。
何もなかった俺が仲間を持ち、部下を持ち、家を持ち、妻や子供を持つまでになった。
俺は四神に心の底から感謝した。だが…」
少しの沈黙があった。
ここからがアキレスの本当に言いたかったことなのだろう。


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