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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第14話-19


【 隼 】|100|010|0  |2|
【猛 虎】|010|100|0  |2|

 8回表、“隼リーグ選抜チーム”の攻撃は、能面に代わって一塁の守備につき、そのまま6番に入っている雄太から始まる。
「よし…」
 “神宮球場”での初打席とあって、いつものお調子者な様子は陰を潜め、緊張感を漂わせて、彼は打席に入っていた。
 マウンドには“猛虎リーグ選抜チーム”3番手の投手・中川が上がっている。浅井に比べれば、体格は小柄で細身のところがあるが、足を高く上げるダイナミックなモーションと、テンポの良い投球が持ち味で、上位打線の攻撃だった7回表を、三者凡退で終わらせたことからも、さすがはリーグを代表する好投手であることがわかる。
「ストライク!」
「ストライク!!」
 バネの利いた躍動感のある投球モーションから、キレのいいストレートを内角に続けて決められ、雄太は瞬く間に追い込まれてしまった。
「雄太! らしくないわよっ!!」
 一塁側ベンチの真上にあたる観客席に座っていた、品子の声が聞こえてきた。消極的な姿勢を叱咤するその声を受けて、雄太はひとつ大きな息を吐いた。
「!」
 三球目は、遊び球を使わずに、外角低めにストレートが来た。
「ファウル!」
 雄太は、持ち前のバット・コントロールを駆使して、それをファウルで凌ぐ。
「ファウル!!」
 二球連続して、外角に来たボールを、雄太はファウルにして粘った。
「ボール!」
 外角高めのつり球には、手を出さない。ファウルを二球放ったことで、雄太は打席内での落ち着きを取り戻していた。
(狙うのは、ひとつだぜ…)
 バッティングが窮屈になる、内角低目への決め球だ。相手は右投手だから、角度的にも抉り込む軌跡になるそれは、詰まりやすくもなる。
「!」
 狙っていた内角低目が、きた。雄太は腕を折りたたんだまま、腰の回転を鋭く起動し、内角低めの絶妙なところにコントロールされたそのストレートに、タイミングをあわせたスイングを放つ。
(ここだ!)
 ボールのミートする感触を、グリップで感じた瞬間、雄太はその柔らかいリストを利用した反発力を発動させて、バットにそのベクトルを重ね合わせた。

 キンッ!

「おおっ!」
 一・二塁間を、打球が鮮やかに抜けていく。スイングの余勢で一塁への走塁を始めていた雄太は、右翼手が打球を掴んだときには既に、一塁キャンバスに到達していた。
「雄太、ナイス・バッティング!」
 品子の歓声がグラウンド内に響き渡る。その声には、同じリーグの選手にかけるものとは違う色合いが、誰が聞いてもわかるぐらいに、込められているものだった。
「いいものですね。彼女からの声援というものは」
「こいつは、どうも」
 穏やかな微笑を絶やさない一塁手の明智からかけられた声に、雄太は、はにかみながら応えていた。
 7番の田村が打席に入る。その直前に、彼から出されたサインを、雄太はしっかりと確認する。品子がくれた声援に、浮かれてばかりはいられない。
「アウト!」
 田村の送りバントが決まって、雄太は二塁に進んでいた。
「アウト!!」
 8番打者は、仙石だったが、彼はフルカウントまで粘ったものの、セカンドゴロに打ち取られた。それでも、二塁にいた走者の雄太を、三塁まで進塁させる辺り、さすがは前期優勝チームの主将を務めているだけあって、チームバッティングを心得ている。
「バッターラップ!」
 二死ながら、三塁に走者を置き、打席に入ったのは大和であった。
「………」
 静かに構えを取った大和の背中が、雄太にはとても大きく見える。雰囲気と貫禄を感じさせるその背中に、雄太は、大和が持っている“オーラ”の強さを改めて垣間見た思いがした。

 キィンッ!!

「おっ……」
 初球、であった。
 中川の投じた外角低めのやや内側に入ったストレートを、大和のスイングが力強く叩き、打球は右翼方向へ高々と舞い上がる。
「!」
 二死だったので、雄太はすぐさま走り出した。

 おおおおぉぉっ……!!

(いったな!)
 ホームベースを踏んだ瞬間、球場内に歓声が起こったので、大和の放った打球が右翼のフェンスを越えて、スタンドに入ったのだということが、雄太にはわかった。
(涼しい顔しながらよ、やることはド派手なんだからな、ホントによ…)
 何度、度肝を抜かされてきたことか…。悠然とダイヤモンドを一周する大和の姿を追いかけながら、雄太は、ホームに還って来る頼もしきチームメイトを待った。
「大和、やりやがったな!」
「ありがとうございます、キャプテン」
 ハイタッチを力強く交わして、さらに雄太は、大和の背中を契機良くはたく。
「後は、投げる方だな。こっちも、ド派手に頼むぜ、大和!」
「はい!」
 本塁打を打ったことはもう忘れたように、ベンチに帰り着くなりグラブを取り出して、既に準備をしていた仲里とキャッチボールを始める大和の姿を、雄太は目を細めて追いかけていた。


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