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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第14話-18


【 隼 】|100|010|   |2|
【猛 虎】|010|100|   |2|

 “東西交流試合”は中盤を終了して、いよいよ残すところラスト3イニングとなった。
「ピッチャー交代!」
 楓の言葉を受けて、この回からマウンドに立ったのは、草薙大和である。
 かつて“甲子園の恋人”と呼ばれ、“西の聖地”たる“甲子園球場”を騒がせた大和だが、この“神宮球場”で投げるのは、初めてのことだった。つまり彼は、“東の聖地”と呼ばれる球場のマウンドにも立つことができたのである。
(………)
 湧き上る高揚感に、神聖な静謐が混ざるのは、ここが“杜の球場”と呼ばれることと無縁ではなかろう。日本が持っている野球の歴史を、その始まりから刻んできた球場なので、歴史の重みがこのマウンドには詰まっている気がする大和であった。
「プレイ!」
 主審のコールを受けて、大和がプレートを踏みしめる。“甲子園球場”のそれを、初めて踏んだときと同じような興奮が、爪先から全身に駆け巡った。
 ざ、と足があがる。言い知れない興奮が躍動感となって、大和の流れるような投球モーションに力強さを加えていた。

 ゴォッ…!

「!」

 ズバァァン!!

「ストライク!」
 捕手・仲里のミットを鳴らした音は、この試合で最も強く小気味の良いものであった。打席に入っている、8番の細川は、内角高めに浮き上がってきた球威のあるその直球…“スパイラル・ストライク”を、幾分背を反らした状態で見送っていた。

 ざわ…

 と、ミットの音に反応して、球場に“ざわめき”が生まれた。“早朝野球”でもあるので、当然ながら観客席はがら空きだが、東西のリーグ関係者や、リクルト・イーグルスの球団職員が数名ほど、バックネット裏に座っている。
 そんな彼らが、大和の一球を見るなり、なにやら真剣な顔をつき合せて、言葉を交わす様子が伺えた。
「………」
 だが、大和はその視線も全く気にしていない。彼は、“神宮球場”のマウンドが与えてくれる神聖な心地よさを体感しながら、仲里が構えるミットに意識を集中させていた。
「ストライク!!」
 二球目も、“スパイラル・ストライク”が見事に決まる。
「ストライク!!! バッターアウト!」
 打者の細川は、“スパイラル・ストライク”に全く歯が立たず、三球三振に倒れていた。
 捕手の仲里とは、前日の合同練習のときに、十分な打ち合わせをしている。自分の持ち球が、内角高めの直球“スパイラル・ストライク”と、スライドしながら沈む“スパイラル・ラビット”の二つであり、練習のときにも本番を想定しながら受けてもらっていたので、リードについては全てを委ねていた。
「ストライク!!! バッターアウト!!」
 9番は、代打の和田であったが、彼もまた“スパイラル・ストライク”を三球投じられて、空振りの三振に終わった。
(わかっていたことだが、うちの相模とは“制球力”が段違いだ…)
 仲里は、“布武の五虎”以外の打者には、この“スパイラル・ストライク”を打たれないだろうという確信があった。たった一日のプルペン練習であったが、捕手としてその球を受け止めてみれば、その威力の凄まじさがよくわかる。なによりも、安定して相手の内角高めの厳しいところを貫いてくるその“制球力”は、安心してリードができるというものである。
「………」
 “布武の五虎”の、筆頭格である柴田が打席に入った。“かかれ柴田”の異名を取る彼は、その威風堂々たる体格と強面の表情から“鬼柴田”とも呼ばれている。
「ストライク!」
 甘いところに初球がくれば、積極的に打ちにかかってくることもわかっていて、仲里は、ここは外角の低めにストレートを要求していた。さすがに、“スパイラル・ストライク”を連投すれば、“鬼柴田”の一撃の餌食になるだろう。それを効果的に使うためには、内外角の出し入れが必要になる。
「ファウル!」
 内角低めのストレートは、詰まった当たりのファウルになった。布石は、これで仕上がったようなものだ。
「ストライク!!! バッターアウト!!!」
 低めの内外に相手の意識を与えておけば、来ると分かっていても球筋を追いきれないのが“スパイラル・ストライク”の持っている威力である。さしもの“鬼柴田”も、その強烈なスイングにボールを捉まえる事ができず、三振に切って取られていた。
「「おおっ!」」
 三者三振という、最上の滑り出しを見せた大和に、興味の視線が集まったのは言うまでもない。その中で、サングラス越しに最も熱い視線を送っているのは、バックネット裏で腕を組んでいる、ハンチング帽を被った、あの“老齢の男”だった。


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