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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第14話-12

「やってもうたわ……」
 気負い込む前に、岡崎に一発を食らってしまった清子は、バツが悪そうな表情で頭を垂れている。
「くおらぁっ、陵ぃ! あっさり1点やりおってからにっ! “五回までの女”の名が、泣くやろぉが!」
 ベンチで甲高い怒声を上げているのは、“猛虎リーグ選抜”の監督・織田信太郎である。集合場所であるイーグルスの宿舎に、自分よりも先に一番乗りをした清子の気概を買って先発に起用したのだから、その腹立ちも仕方あるまい。
(まーちゃん、ホンマ、容赦ないわぁ。……でも、そこが、大好きやねんけど)
 気を取り直して、プレートを踏む清子。岡崎の一発によって、浮ついた気分はもう消えて、捕手の細川が構えるミットを睨みつける。
(こっからや! 全力の全開で、いかしてもらうで!!)
 大きく振りかぶり、身体を捻る独特のモーションから、その右腕が鋭く振り下ろされた。
「!」
 打席に立つ速水の目に、清子の投じたボールが一瞬、浮き上がるような軌跡を捉えた。
「!?」
 しかしそのボールは、今度は急激に落下を初め、少しばかり揺れるような軌道を描きながら、低めに構えた捕手・細川のミットに収まった。
「ストライク!」
 見慣れない球筋に目が追いつかず、速水は全く手が出なかった。
「ありゃ、なんだ?」
「パーム・ボールだ」
 横から見ても、独特の変化を見せたボールに対する、雄太の呟き。そして、それに即答したのは、先頭打者本塁打を放ち、今はベンチに戻っている岡崎だった。
「「「………」」」
 あまりに答が早かったので、周りにいた他の面々も、視線を岡崎に集中させる。
「パームって、あれか? ドルフィンズのセットアッパー・朝尾が投げてる、チェンジアップみたいな球か?」
「そうだな。ちょっと前なら、東鉄ライアンズの西内投手の代名詞だった球でもある」
 視線に囲まれながら、雄太と岡崎の問答が続いていた。
 “パーム・ボール”とは、手のひら(palm)に、ボールをすっぽりと収めて、主に、親指と小指でそのボールを支えながら、手首を固定してスナップを利かせずに、腕の振りだけでリリースをする変化球である。
 手のひらを押し出すようにしてボールがリリースされるので、最初は浮き上がったように見えるのだが、回転を抑えられていることで急激にブレーキがかかり、最終的にはその球筋が、チェンジ・アップのように沈んでいくのが、その特徴だ。
「回転が抑えられれば抑えられるほど、“ナックル”の要素も含まれてくる。清子の投げるパームは特に揺れるから、敢えて言うなら“ナックル・パーム”ってところだな」
「へぇ……」
「ただ、手首を固定してリリースするから、肘と腕に大きな負担がかかる。スタミナを相当に消耗するボールでもある」
「ストライク!!! バッターアウト!」
 2番の速水が、岡崎が言うところの“ナックル・パーム”にタイミングが合わず、三振に倒れているのを横目にしながら、岡崎の解説は続いていた。
「清子は、投球の実に9割近くが、あの“ナックル・パーム”だと聞く。おそらく、継投が前提にあるんだろう。“5回までの女”っていうのは、そこから来ているんだろうな」
 実際、陵 清子の前期の成績は、いずれの試合も先発で5イニングスまでを投げて、失点は3点以内に抑えている。“猛虎リーグ”において最強の名を恣にしている“布武大学”を相手にしても、2点で抑えたその実力は、“猛虎リーグ・選抜チーム”に選ばれて、当然のものでもあったのだ。
「それにしても、だ」
「ん?」
「やけに詳しいのな、岡崎。しかもお前、あの女ピッチャーのこと、普通に名前で呼んでたぞ。…ひょっとしたら“これ”なんじゃねえの?」
 雄太が、小指を立てていた。
(………)
 そのジェスチャーに敏感に反応しているのは、同じ女子選手であることから宿舎で同室となり、先に清子と交流を深めていた、梧城寺 響であった。響は既に、清子からいろいろ話を聞かされており、岡崎と清子が幼馴染で、恋人同士であることも知り及んでいる。響自身、幼馴染の恋人がいるので、清子との会話はその点からも盛り上がった。
「そうだ。この前、久しぶりに逢ってな。そのまま、“ヨリ”を戻したんだ」
「うわ、お前、あっさり言いやがったな」
 隠し立てしようとしないその潔さに、唖然としつつも苦笑する雄太であった。それは、響も同様だったようで、彼女もまた口元を押さえて微笑していた。
「アウト!!」
 にわかにざわめいた“隼リーグ選抜チーム”のベンチも意に介さず、清子は3番・御門を、平凡なライトフライに打ち取る。
「うむぅ、無念…」
 巧打者の御門は、さすがに三振をしなかったが、見慣れないボールだけに、それを芯で捉えきることはできなかったようだ。
「アウト!!!」
 4番の六文銭も、当たりは良かったが、サード正面のゴロに倒れていた。
 この回は、岡崎に喫した本塁打以外は、全て“ナックル・パーム”を投じている清子なので、おそらくは早めの継投が考えられる。いわゆる“オールスター・ゲーム”を想定した試合だと考えれば、最長でも3回までの登板になるだろう。
(もう1打席、勝負できそうだな……)
 守備位置に入る岡崎は、その時も遠慮なく、清子の球を痛打するつもりでいるのだった。


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