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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第11話-41

 試合は、緊迫した展開で進んでいる。

【法泉大】|000|10 |
【双葉大】|001|0  |

 序盤から中盤にかけて、それぞれ1点を取り合ったことも含めて、完全に“互角”というべき試合内容となっていた。
「おとうさん。おかあさんのチーム、勝てる?」
「…今のところは、わからないな」
 母親を無垢に応援する愛息に対して、本当なら、父親として“勝てる”と言ってやらなければならないのだろうが、正直、栄輔にもまだ試合の動向は読めない。気安めな軽い気持ちで“勝てる”と言ったところで、結果が伴わなければ、息子の裕輔をいたずらに傷つけるだけになってしまう。
「だから、母さんのチームが勝てるように、応援してやろうな」
「うん、そうだね。ボク、いっぱい応援するよ」
「ああ、その意気だ。父さんも、いっぱい応援するからな」
「じゃあ、ふたりで応援合戦だね」
「はは、そうだな」
 そう言って息子・裕輔の頭を撫でる、父親姿がすっかり身についた長見栄輔であった。
 バックネットのそんな光景をひとつの背景として、5回裏の双葉大学の攻撃は始まっていた。打順は、6番の吉川からである。
 前の回の攻撃は、3番の雄太からでもあったから期待も出来たのだが、隼人の前にその雄太が三振に倒れ、4番の桜子、5番の大和もそれぞれ粘りはしたが凡退に終わり、呆気なくも終了してしまった。
 対する5回の表も、9番・独楽送にまたしても内野安打を喫しはしたが、得点圏には走者を進めさせず、“0”をスコアボードに刻み込んだ。
「アウト!」
 この回先頭の吉川は、セカンドゴロに倒れた。隼人の投げる“色即是空”に対して、その球筋こそは目が慣れてきたが、得意のミートをすることができず、平凡なゴロに打ち取られていた。
「………」
 7番・浦は、先の打席同様に左で構える。バットを寝かせて、左手のグリップは握らない、例の“居合打法”である。
 内野安打という結果を出した今、その構えが堂に入ったものに見えるのは、浦自身の自信が成せるものであろう。
「ストライク!」
 内角の厳しいところを攻められても、腰を引かなくなったのもそのひとつだ。
「ボール!」
 外角の微妙なボール球にも、目が追いつく。球筋の見極め、という、これまで苦手にしていたことが、“居合打法”によってかなり改善された。
「!?」
 内側に来た“色即是空”が、そこからさらにシュートしてきた。
「う、わっ!?」
 その曲がり具合が、いつもより大きい。身体に向かってくるそのボールに対して、浦は上半身を仰け反らせたが、ユニフォームの胸元を少し掠めた。
「デッド・ボール!」
 すぐさま主審が、一塁を指し示した。
 明らかな隼人の失投である。身体に当てたわけではないが、死球を与えてしまったことには変わりがないので、隼人は帽子を脱ぎ、浦に軽い会釈を送ってきた。
 それに対して、浦は右手を少し挙げて、気にしていないことをジェスチャーで告げる。浦としては、思いがけない出塁の方を、嬉しく思う気持ちが強かった。
 8番の結花が、打席に入る。1点を争う緊迫した展開で、一死一塁のこの状況だ。品子を介してエレナが送ってきたサインは、やはり、結花も予想していたものだった。

 コツッ…

 と、先制の1点を挙げた3回裏の焼き直しのような、送りバントである。
「!」
 一塁線に放ったバントは、ライン際を転々とする、絶妙な打球となった。打者走者が踏み荒らしていたこともあり、凹凸が目立つグラウンドによって、そのバウンドがさらに弱いものとなる。
「Fuu!」
 大きな身体を揺らして、ダッシュを仕掛けてきた一塁手の能面が、結花とすれ違いながら、打球をようやくグラブに掴んだ。
「アルフレくん、一塁!」
「ワカッタ!」
 俊足の浦は、二塁を既に陥れようとしている。間に合わないと察知した響の指示を受けて、能面は、一塁のベースカバーに入っている二塁手・大仏に向けて送球をした。
 しかし、長い手足ゆえに、一連の動作が幾分、遅れたものになる。コンマ数秒の差とはいえ、それは、結果に大きな影響を生んだ。
「セーフ!」
「Oh!?」
 結花の足が、わずかに速くベースを踏んだ。“送りバント”が、結果としては“内野安打”になったのである。
 痛打はないが、これで一死・一二塁となった。


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