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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第11話-40

「おおぉぉぉ!」
 球場が沸きあがっていた。響はようやく、自分が適時打を放ったという自覚を持つことが出来た。
(よかった)
 自分に好機を繋いでくれた隼人を、ホームに返すことが出来た。1点を取られてしまった隼人に、その1点を早く返してあげられた。
「ひびきぃ、よくやったぞぉ!!」
 右拳を握り締めて、自分に向けてそれを差し出している隼人。喜色を満面に湛えながら、自分を褒めてくれるその様子に、響は全身が熱くなっていた。
「HAHAHA!」
 5番の能面が、打席に入る。響は、身体の熱気はそのままに、脳内は冷静な思考を取り戻して、ベンチワークに注意していた。
 サインは、出ていない。スクイズの可能性も考えたが、打者がそれほど器用ではない能面だったので、そのまま打たせた方が、打球が前に飛ぶと判断したのだろう。

 キン!

「!」
 ベンチの思惑通りに、飛球がセンターへ上がった。ほぼ定位置というべきそれは、タッチアップには十分なフライとなっていた。
 中堅手が、グラブを構える。緩やかな足の動きが、しかし、打球の落下に合わせて一気に加速した。タッチアップに対するための、返球の予備動作である。
「よし、行け!」
 グラブにボールが収まった瞬間、三塁コーチャーのゴーサインがでた。それを聞きつけるや、響はベースを蹴り、ホームへ向かって突進する。
 相手が並の中堅手であれば、容易なタッチアップだった。そう、“並”であったのならば…。
「!?」
 ホームベースをブロックしている捕手の桜子が、ミットを構えて捕球の動作をとった。響はまだ、スライディングをしかけるには距離を残している。
(もう、返ってきた!?)
 だとしたら、中堅手は相当な強肩である。コントロールも、良い。
「くっ!」
 響は、自らの体を“弾丸”に見立てて、桜子のブロックに突っ込む。既にミットに送球は収まっていて、捕手の桜子は響に対するタッチをしかけるべく、体を正対させようとしていた。
 相手は女子だが、自分も女子だ。遠慮なく、そのブロックを弾き飛ばそうと、猪のように猛進する響。

 ガッ…!

「うっ!?」
 しかし、分厚い壁のようなものにぶち当たった感触が、全身を走った。
 響は、桜子のブロックを弾き飛ばすどころか、微動だにさえさせることが出来なかったのである。
 衝撃を受けながらも、体勢を崩すことのなかった桜子のミットが、響の胸にしっかりと押し当てられていた。
(お、重い……)
 体重が、ではない。桜子の、大樹を思わせるその安定した体幹と、錨が下りているような強靭な足腰に、響はそう感じざるを得なかったのだ。
「アウト!!」
 中堅へのフライアウトと、タッチアップの憤死。同点には出来たが、そのまま逆転という流れには至らなかった。まだ、“勝利の女神”は、その動静を明らかにしていないらしい。
「惜しかったな」
 相手のブロックに弾かれ、アウトになってしまったことで、少しばかり消沈しながらベンチにやってきた響を、それでも隼人が陽気に出迎えていた。
「よくやったぜ、響。…そんな顔すんなって」
 ヘルメットを外した響の頭に、その大きな手のひらが優しく乗せられる。
「お前のタックルを、ああまで簡単に止める方が、尋常じゃねえんだ」
 だから、アウトになったのは気にするな。と、言わんばかりに、頭をわしゃわしゃと撫で回された。クセの強い響の髪の毛が、たちまちにしてピョコピョコ跳ねる。
「からだ、痛いとこないか?」
「う、うん。大丈夫だよ、にぃにぃ」
 タックルを止められて、逆に身体を痛めなかったか、心配をしてくれた。小さな頃と同じような暖かい空気を感じて、思わず響は、昔の呼び方をそのまま隼人にしていた。
「ストライク!!! バッターアウト!!! チェンジ!」
 6番の仙石主将が、空振りの三振を喫する。この回は、響の適時三塁打が飛び出して同点には出来たが、その後のチャンスは相手の好守に封じ込められた。
「さて、響が同点にしてくれた後のイニングだからな…」
 瞑目を少し挟んで、隼人が帽子を深く被りなおしていた。試合の流れを引き寄せるには、点を取った後のイニングをしっかりと抑えなければならない。
「いくぜ、響」
「はい!」
 プロテクターとレガースを身に着けた響も、隼人の横に並ぶように、ベンチから守備位置に向けて、力強く足を踏み出していた。
「………」
 その琴瑟相和した“夫婦”ともいうべきバッテリーの後ろ姿に、厳しく腕を組んでいる楓の頬が、わずかに緩んでいた。


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