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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第11話-42

 9番・航が打席に入った。エレナからのサインは、“ヒッティング”である。連続の送りバントも想定していたが、監督は自分の打撃に期待をかけたのだろう。
 ならば、それに全力で応えるのが、自分のすべきことである。

 キンッ!

「おおっ!」
 二球目の、内角を突いてきた“色即是空”を、航は思い切り引っ張った。わずかにスライドしたそれに惑わされず、自分のスイングを信じて振り切ったのだ。
 鋭い打球が、三遊間を襲う。遊撃手の独楽送が伸ばしたグラブは、しかし、航の打球を捕まえることが叶わず、打球はそのままレフトに到達した。
「浦くん、ストップ!」
 品子は、浦を三塁に留めた。打球の強さと方向から、浦の俊足をもってしても、本塁への突入は無謀と判断したのだ。確かに、次の打者が先制タイムリーを放っている岡崎でもあるから、ここは無理をする場面ではない。
「………」
 一死・満塁。そして、迎える打者は1番の岡崎。双葉大にとっては、またとない得点の好機である。
「タイム!」
 捕手の響が、タイムを取り、マウンドへ向かっていった。それを目で追いつつ、岡崎は軽い素振りを繰り返して、身体と気持ちを解す。
「バッターラップ!」
 規定の時間が終わり、響が元の場所に戻ってきたことを受けて、岡崎は主審に促されるまま、左打席に入った。
(む……)
 マウンド上の隼人は、ピンチを迎えながらも動じた様子がない。それどころか、笑みさえ浮かべている。
 セットポジションで構えた隼人は、ひとつの間をおいて、投球モーションを開始した。満塁なので盗塁の不安はないためか、クイックモーションではなかった。
「ストライク!」
 内角に、威力のある直球が決まる。
「?」
 岡崎は、その球筋に違和を感じた。“ムービング・ファストボール”に変わりはないが、“色即是空”とはそのブレ方が違うような気がした。
 二球目。同じようにインコースへ、それは来た。
「!?」
「ストライク!!」
 手を出しかけた岡崎だが、バットが止まった。一瞬、ボールが沈んだように見えたからだ。
(なんだ、今の球は?)
 “チェンジ・アップ”や“フォーク・ボール”のような、はっきりとした沈み方ではないから、おそらく変化球とは違う。“ムービング・ファストボール”なのであろうが、球筋が“色即是空”のそれではない。
「ボール!」
 岡崎が思考をまとめている中、三球目は外角に少し外れた。その球筋は、スライドしたから、これは“色即是空”で間違いないだろう。
 四球目のストレートは、内角に来た。
「!」
 岡崎はスイングを始動した。球筋に惑わされていては、せっかくの好機が活かせない。内角を貫いてきたストレートに対して、先制タイムリーを放った前の打席のイメージそのままに、岡崎はボールを叩きに入る。

 ガッ!

「!?」
 しかし、予想に反してその打球は、頭上に高々と打ちあがった。
「オーライ!」
 捕手の響がそう叫んだ後、すぐさまマスクを剥ぎ取ってその視界を広げ、打球を追いかける。落下地点に到達した後、数歩、その場を行き来したが、高く上がった打球を見失うことなく、ミットの中にしっかりと掴み収めた。
「アウト!!」
 補邪飛である。
「しまった……」
 外野はおろか、内野にも打球を飛ばせなかったことは、岡崎としては痛恨であった。“沈む”球筋が頭をよぎったのか、スイングが幾分、アッパーになったのかもしれない。
(あれは……あの球は、“色即是空”ではない)
 球がブレる直球、すなわち“ムービング・ファストボール”であることは間違いない。だが、球筋は明らかに“色即是空”とは違っている。なにしろ、“沈む”という要素を、初めて見せてきたからだ。
「アウト!!!」
 2番の栄村は、二球目をセカンドフライに打ち上げてしまった。彼もまた、変わってきた球筋に惑わされたのだろう。
「チェンジ!」
 一死・満塁の好機は、しかし、結果として無得点に終わった。
「「「………」」」
 何となく重苦しい雰囲気を、双葉大のベンチが抱えてしまったのは、無理からぬところである。


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