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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第11話-17

「日帰りだったら、俺、死んでる……」
「まさか、アンタにこんな弱点があるとはねぇ」
 席の最前列にて、結花の隣に座っている航は、酔い止めを服用していながら、いつも以上におとなしくなっていた。それに対して揶揄を入れつつも、結花は、自分が用意していたお茶なり、はちみつレモンなり、塩の利いた梅干なり、心配しながら勧めている。
 ちなみに、航が“バスに弱い”という情報は、彼の義姉である美野里から聞いていたことだった。
『航ちゃん、亮くんと同じで、バスだとすぐ酔っちゃうのよ〜』
 ときに、双子なのに、翔はそうでもないらしい。各地への遠征が多いJリーガーである翔は、ユースの頃から乗り物慣れしているところもあるので、いつの間にか三半規管が鍛えられたのであろう。
『結花ちゃん、航ちゃんのこと、お願いするわね〜』
 遠征の数日前に、携帯にそう連絡の入った結花は、乗り物酔いに利くのは何か、事前に調べて、それで、はちみつレモンや、塩の利いた梅干を持ってきていたのだ。
 結花は、航の実家にこれまで3度ほど、招かれている。“蓬莱亭”でのやり取り以降、美野里に気に入られたこともあって、お互いの連絡先を交換し合う仲にもなっていた。
『連れてきなさいよ〜って、みの姉がやかましくて、さ…』
 航から、実家に誘われるときの常套句だ。
 美野里からはっきりと言われたわけではないのだが、おそらく自分の航に対する気持ちは、気付かれていると思う。だが、彼女は意外に、航と自分が同じ場所にいる場合は、その話を積極的にはしない。もちろん、冗談交じりに、
『結花ちゃんが早く、ウチの娘になってくれないかしら〜』
 と、言われることもあったが、それはやはり、航がその場にいない時に限られていた。
(気持ちはきちんと、自分で伝えなさいって、言われてる気がするのよね…)
 だから結花は、そう思っている。
 “蓬莱亭”でのやり取りの中で、航に対して美野里は、“自分の大事な人の、好きなものは、きちんと自分で聞きなさい”とも言っていたから、周囲の露骨な後押しが、恋を予期せぬ形で終わらせてしまいかねないと、普段の様子からは想像もつかない、思慮の深さを見せているのだろう。
 しかし、携帯で送られるメールでは、思わせぶりな激励の言葉が並べられていた。
『航ちゃん、絶対、結花ちゃんみたいな女の子、好みのタイプだから〜』
『この前、ちょっとおウチに来たことあったけど、結花ちゃんのこと、いっぱいお話に出てきたわよ〜』
『お義母さんも、結花ちゃんなら、航ちゃんにぴったりって、そう言ってたわよ〜』
 航の母親・碧には、まだ逢えていない。だが、美野里から送られてきたメールによれば、ぜひ一度、会ってみたいとのことだった。末のしかも双子なので、碧も、航と翔には、何処といえば“甘い”ところがある。結花が、そんな航にふさわしい女子かどうか、実際に会ってみて、推し量りたいとも考えているのだろう。
 そんな場面になったとしたら、と、考えると、とてつもない緊張が体を走る。
「う……」
「ちょ、木戸、ほんとに大丈夫?」
「すまない。……お茶、もらっていいか?」
「うん。すぐに、用意するから。気持ち悪くなったら、ちゃんと言ってね」
「ああ…」
 不意に呼吸を乱した航を、結花が慌てて介抱し始めた。傍から見ていれば、連れあいの体調を気にかけて、心配している微笑ましい光景のひとつである。
(フフ、似てますね。アキラとリョーのおふたりに)
 そんな二人の様子を、懐かしさを感じながら暖かい眼差しで眺めている、エレナであった。


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