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ドミニク、それは……
【その他 官能小説】

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予定変更-1

私は今から歩いて行けば劇場の開演に余裕を持って間に合い、観劇することができる。
だが、振り向いてその娘を見ると彼女は立ち止まり動こうとしない。そして言った。
「待って下さい。あなたは怪我をしているのでは?」
「いえ、そんなことは……」
その娘は私を追いかけて階段を数段上るとバッグを持っていない方の左手を自分の右手で掴んだ。白い杖は左手に持ち直していたのだ。
「歩く音でわかるのです。さっきもすぐに体を起こせなかったですね。地下街に休むところがあります。そこまで行きましょう。私が肩をお貸しします」
私は言えなかった。これから前から楽しみにしていた演劇を見に行くのだとは。彼女が私の左腕を自分の肩に回して、右手を私の腰に回したとき、そしてその胸の膨らみが微かに私の背中と脇腹の境目あたりに触れたとき、私はそれを言えなかった。
いつまでもそうしていたいと私は思ってしまったのだ。でも口では別のことを言っていた。私は左手を外しながら嘘の言葉を言った。
「そんな……あなたにそんなことをしてもらっては申し訳ないです。逆ですよ」
するとその娘はちょっとサングラスを掛けなおす動作をしてから私の左腕に自分の右腕を絡ませた。
「これなら目立たないですよね。肩を借りているのが恥ずかしいのでしょう?」
その娘は盲人の自分に肩を借りて歩けば通行人に何と思われるだろうと、そのことを察してくれたのだ。
確かに私は頭の後ろも首も背中も痛い。そして今は腰の骨盤の調子もおかしい。こうやって支えてもらった方が楽だ。だが向かう方向は今までいた地下街の方だ。
その私の躊躇いを察するかのように、その女性は尋ねた。
「こっちに戻ってしまうと困りますか? 何か用事があったのでしょうか」
「いえ、特に何もありません。じゃあ、ちょっと休める場所まで連れてってくれれば助かります」
私はまた嘘をついた。それを聞いた娘は左手で杖をついて絡ませた右腕で私の左の上腕を自分の胸にぎゅっと引き付けてから言った。
「私の目になって下さい。しっかり支えますから」
「あ……ありがとう」
「お礼を言うのは私の方です。巻き込んでしまってごめんなさい」

私は女性に支えてもらって歩きながら思った。自分の娘の沙耶加がこんな風に私を支えて歩くことがあったら、どんなに良かっただろうって。
それにしても若い女性に支えてもらって歩くことがこんなに気持ちが良くて嬉しいことなのか、私は嬉しさのあまり目頭が熱くなった。きっと目が赤くなっていたと思う。
女性は22・3才くらいだろうか。沙耶加よりはずっと若い。沙耶加は30を過ぎて大分経つ。正確な年齢も覚えていない。誕生日は覚えているが。
「あなたこそこれからどこかに行くところだったのでは?」
私の問いに女性は首を振って笑顔を見せた。そのとき、サングラスが少し歪んでいるのに初めて気がついた。そうか、それでときどき掛けなおす動作をしていたのか。
「ちょっと止まって。サングラスが歪んでいます」
僕は彼女の顔からサングラスを外すと掌に載せて歪みを見た。きっと落ちたときにぶつけたのだろう。サングラスのツルが捻ったように歪んでいた。私は逆方向にそっと捻って歪みをある程度まで戻した。
「完全じゃないけれどこれで少しはフィットすると思います。後は眼鏡屋に行って直して貰って下さい」
「ありがとうございます」
サングラスをかける前に女性は私を遠くを見るような眼差しで見てにっこり微笑んだ。
目が見えないからだろうが、何か私を突き抜けて更に後方を見ているようなその眼差しに私は置いてきぼりを食らったような寂しさを感じた。
この女性は私ではなく、私の虚像を見ているのだろうか。それも仕方ない。虚像を作ったのは私自身だからだ。
この寂しさはその当然の報いなのだろうとそんなことを思った。
「今コーヒー店の前を通ったので、ここがブティックで次が休憩場所ですね」
女性はそう言うと、私をベンチに導いた。彼女は目のある私の目にもなっていた。
ベンチに座ると簡単に名乗りあった。私は山崎徹で彼女は堀雅美と言った。彼女は按摩マッサージの学校を出て、フリーで仕事をしているという。
彼女は私の首筋や肩を手で触って、打ち付けたショックで固くなっていると言う。
「ここではできませんから、個室に行って痛みをとってあげます。そうしなければ私の気がすみません」
確かに言われた通り体の節々が痛い。だから私は彼女の言葉に従うことにした。
 


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