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ドミニク、それは……
【その他 官能小説】

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盲目の女性-1

S市に着くと、私は地下鉄の駅を降りて地下道を出口に向かって歩いていた。前後を見ると人影がない。私は何故か『ドミニク』という歌を思い出した。
ドミニクは普通は修道院のお坊さんの名前で彼のことを歌った歌詞なのだが、同じ曲でもザ・ピーナッツという双子の歌手が歌っていた歌詞は違った。
私はその歌を口ずさんだ。地下道は小さな声でもよくエコーが効いて気持ちがいい。
ちょうど私が『ドミニク♪それは……』と歌ったとき角を曲がって登り階段になった。私は階段の上に人影を感じてそこで歌をやめた。そして私は思わず、
「えっ?!」と声を出してしまった。
下まで10段ほど残したところにその若い女性は立っていた。白っぽいレインコートにサングラス。そして右手には白い杖を持っていたのだ!
その女性は明らかに立ち止まっていた。でも私の驚いた声で慌てて階段を降り始めた。その途端……!
「危ない!」
私は急いで走った。彼女が階段を踏み外したのだ。白い杖が手から離れ宙に舞った。女性の体はスローモーションのように私のいる踊り場に向かって落下して来た。
このままコンクリートの床に顔から激突すれば頭蓋骨が割れるかもしれない。それとも首の骨が折れるかも! 咄嗟のことだったのでそういう言葉にできる余裕がなかったがとにかく私は彼女の落下と同時に彼女と床の間にスライディングした。


気がつくと私は地下道の灰色の天上を見上げていた。頭が痛かった。私は仰向けに床に倒れていて、その女性は私の胸に顔をつけていた。どうやら受け止める積りが後頭部を打ったらしい。だが彼女は私がクッションになって怪我を免れたらしい。
「自分で……起きられますか?」
私は女性に訊いた。私は彼女が上に被さっているので重くて起きられない。そう、若い女性が私の体に体を重ねるようにしてじっとしているのだ。
その娘がゆっくり起き上がるとき、お腹に当たっていたのは彼女の胸の膨らみだったと気づいた。
「あの……あなたは大丈夫ですか?」
女性は透き通ったきれいな声でそう尋ねた。私は体を起こそうとした。だが女性が離れたので起きれると思ったが、それは間違いだった。頭の後ろの他に首も痛かったし、背中は痺れていて痛みも感じなかった。
私は体をやっと横向きにすると腕の力を使ってやっと起き上がった。そして落ちている杖を拾うと娘の手に持たせた。
その時に私はこんなことを言ってしまった。
「僕は大丈夫です。あのう……変な声を出したから。驚いたんですね?」
自分のことを『僕』と言ってしまったのだ。つまり相手の目が見えないことを良い事に若い男のふりをしたのだ。意識的ではないが咄嗟にその言葉が出た。
娘はサングラスを弄りながら言った。
「いえ……そうじゃなく、私はあなたの歌声に聞きほれていたんです。それで立ち止まっているところを見られたと思って慌てて歩き出したんですが、焦って足を踏み外してしまいました。本当に危ないところを助けて頂いてありがとうございました」
それを聞いて私はほっとした。私の声に驚いて足を踏み外したのではなく、歌声を聞いていたのが見つかったと思って焦ったために足を踏み外したのだということがわかったからだ。
私が彼女を見て驚いたのは、実は歌の歌詞に関係があったのだ。『ドミニク♪それは……』の後に続く歌詞はドミニクが盲目の乙女であることを歌っていたのだ。
その歌詞を歌おうとしたとき私の目の前に現れた女性がまさに盲人だったことに私は驚いたのだ。
まさしく偶然の運命を感じた瞬間だった。そして落下した彼女を身を投げ出して救うことができたことも運命の不思議を感じた。
私は飛び出したときに手から離した自分のバッグを持つと、彼女に言った。
「それじゃあ、僕はこれで。お気をつけて……」
 


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