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紅館の花達
【ファンタジー 官能小説】

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紅館の花達〜金美花・上編〜-1

強い魔力を持つエルフと言えども、自然の力には敵わない。
そう私の記憶に刻みつけるような強い嵐だった。
海のエルフ、本来森に住んでいる私達が海辺に住むようになったのはいつなのか解らない。 森に居られなくなったのか、海が好きなのか。
だが、海辺は森とは違い、強い風と波が襲うことがある。
嵐は木で出来た家を吹き飛ばし、波はエルフを海に引きずり込んだ。
だが、そんな地獄のような嵐の中で私は生き残れた。
崩れた家の下敷になりながらもまだ生きていた私は一夜明けて、昨夜が嘘だったように静まりかえった海と、青い空の下で一人ぼっちになってしまった。
『ファイニ…スクラ…パパ…ママ…?』
名前を呼んでも返事は無く。 波の音だけが耳に入る。
膝の力が抜け、私は崩れるように倒れた。
白い砂は日に照らされて熱い。 その熱から逃れるように崩れた家の影に這って行った。
(誰も居ない………みんなみんな死んじゃったの………?)
私の青い瞳からは、海のようにしょっぱい涙が溢れた。

日が沈み、辺りが暗くなり始めると、急に孤独感が増した。 闇が怖い。 暗闇とはこんなに怖いものだったのか…?
空腹と、孤独感が私を責める。
『嫌……嫌………誰か………』
突然、真っ黒な海が自分を飲み込むような気がして、怖くなり夢中でその場から離れた。
暗闇の中、あてもなく歩いた。 月と星の光で僅かに道が見える。 どこに続くのか解らない。 来たこともない。 これからどうなるのだろう?
だが、暗闇に光が射した。 道の向こうから松明のような光が二本。
やがて、馬の鳴き声と共に二頭の馬が駆けてきて、止まった。
『君は海辺のエルフか?』
赤い毛色の馬に乗っている人が話しかけてきた。
よく見えないけれど、たぶん男の人。
もう一人、白馬に乗っているのも男の人のようだ。
『そう…です…』
『もう大丈夫だ。 君の他には?』
白馬の人が馬を降りて話してきた。
『居ないの………みんな………みんな………』
フラリと、頭が揺れて私は倒れそうになったところを、私は白馬の人に抱き止められた。
もう大丈夫という言葉に、緊張が解けたのだった。 そして、空腹感と安堵から、そのまま私は気を失ってしまった。

『………あぁ、この子以外は全滅だった。』
『くそっ! なんてこった!!』
『あの嵐だ…生存者が居ただけでも奇跡だよ…』
目をさました私は柔らかい毛布をかけてベットに寝ていた。
『………ここは………?』
『ん? あぁ、気が付いたかい?
……ここは私の屋敷だよ。 君が倒れてから、ここに運んだんだ。』
猫の獣人がベットの脇にある椅子に座った。
声からして、赤い馬の人だ。 獣人の後ろには、金色の毛色をした犬の獣人が立っていた。
『……気分………大丈夫か?』
こっちが白馬の人の声だった。
『大丈夫………です。』
私の言葉を聞いて、二人はホッと一息ついた。
『………ゆっくりと休みなさい。 キシン、お粥を貰って来てくれないか?』
犬の獣人が頷いて部屋を出ていった。 残った猫の獣人は片手を私のおでこに当てて、優しく撫でて始めた。
『………大変だったね………』
『………あの………村は………?』
獣人は静かに首を横に振った。
『残念だけど…君だけが生存者だ。』
獣人の言葉が頭の中で繰り返し流れた。 やはり、私は一人ぼっちになってしまったのだ。
『………』
また涙が溢れてきそうになる。
『……君は親戚か誰か、居るのかな?』
『………』
首を横に振る。 私はあの村以外知らない。 親戚も、皆あの村に居た。
『私……どうしたらいいの………?』
獣人は少し困った表情をして考え込んだ。


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