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溺れる爪痕
【ファンタジー 官能小説】

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幻影-19

 自分も大概、貴族と趣向はそう大差ないのかもしれない。

非道ではないにしろ、決して趣味が良いとも云えない。

そんなことを反芻しているうちに、シウの指先がすぅ、と頬になぞられる。

「擽ったいよ」

「・・・アズールはいつもこんな感じだよ」

「えー。なんか嫌だな。自分が触ってるみたいに触られてるの、今」

「良い気味だ。ひとのこと馬鹿にして、本当、良い身分だよな」

「シウ、怒ってる?」

「・・・怒ってない」

す、す、と撫でる指の腹が髪を鋤き、耳の線を象る。

極々僅かな呼気に含まれた毒素が体内に募り、果てしなく蓄積されていくのが分かる。

即効性がないから尚更、悪酔いに至るという混血の作用。

夢見心地から還れなくなる人間がいるという事例も、漸く現実味を以て頷けた。

気付いたときには頭の天辺までどっぷりと溺れて、もがくことすら忘れてしまう。

一発触発のサキュバスよりも質の悪い甘い毒。

翻弄するつもりが翻弄されてしまう、というアズールの見解に烙印が焼き付くのも時間の問題だった。

さわさわと顔中を撫で回していた掌がシャツの裾を割って中に潜り込む。

「・・・・熱」

「シウの手は冷たいね」

「触ってたらすぐに同じ温度になるだろ」

「・・・また、そういうことを言う。それ、わざと?持たなくなるからあんまり煽らないでよ」

「・・・・・変態」

「・・・知ってる」

ふ、っと溢した笑みが熱を帯びる。


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